研究課題
哺乳類を含む多くの脊椎動物の脳深部には光受容タンパク質オプシンが発現しており,光センサーの機能を持つ細胞による「脳内光受容」が行われていることが示唆される。しかし特に哺乳類などでは、頭上からの光は毛・皮膚・頭蓋骨・脳組織によって反射、吸収、散乱を受けるため、脳深部まで光が届くのかについては疑問視されている。本研究では脳深部へ光を伝達し得る新たな経路の候補として眼内からの経路に着目した。眼内の網膜から脳深部へと伸びる視神経では、ミエリン化された神経軸索が束となっている。屈折率の低い軸索と屈折率の高いミエリンが寄り集まった構造は光ファイバーの構造と類似し、散乱や吸収による大きな損失のないまま光を伝達できる可能性が考えられる。そこで、眼内から視神経を通り脳深部へ光が伝達される可能性を検証することを目的とし研究を行った。まず光計測系の構築を進めた。高感度かつ光ファイバーに接続できる分光光度計としてOceanView社QEPROを購入し、ラットの脳の厚みに相当する20mm程度の生体組織について、十分なS/N比で透過スペクトルを測定できることを確認した。さらに、光遺伝学における脳内の光刺激に用いられる光ファイバーカニューラを接続して用いることで、脳深部組織へ刺入したカニューラ先端から光を取り込み、その強度を計測することを可能にした。次にこの光計測系を用い、マウスの眼に光を入射させた際の脳深部(視床下部の近傍)の光強度を測定した。その結果、眼球を通り脳深部へ到達する光強度は、頭蓋を通して光を入射させた時よりも有意に大きかった。特に近赤外の範囲で差が大きく、1桁程度大きな透過率を示した。これらの結果から、眼球から脳深部へ高効率で光が伝達されることが示唆された。
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