研究課題/領域番号 |
20K21419
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
笠原 博幸 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00342767)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | オーキシン / フェニル酢酸 / インドール酢酸 / 生体防御 / 成長調節 |
研究実績の概要 |
オーキシンは植物の様々な形態形成を制御する植物ホルモンである。これまでインドール-3-酢酸(IAA)の生理活性や極性移動する特徴をもとに成長や分化、環境応答のメカニズムが考えられてきた。申請者らは最近、フェニル酢酸(PAA)がオーキシン受容体に結合するが、重力方向に極性移動しないユニークな特徴を持つオーキシンであることを発見した。本研究では、PAAが植物の生体防御に重要な役割を持つオーキシンであることを生化学・分子生物学的な手法により検証する。 RNAseqを用いたシロイヌナズナのオーキシン応答遺伝子解析により、IAA特異的、PAA特異的、そしてIAAとPAAに共通して発現量が変動する遺伝子をそれぞれ同定した。PAA特異的に応答する264遺伝子をさらに解析したところ、細胞壁関連、植物免疫関連、根発生関連の遺伝子が含まれていることが明らかになった。また、PAAは他の植物ホルモンの調節にも関与しており、エチレンとブラシノステロイドの生合成遺伝子の発現を促進し、サイトカイニン代謝遺伝子の発現を抑制することが示唆された。 IAAとPAAに応答する遺伝子の発現パターンを解析した結果、IAA特異的に応答する遺伝子はシロイヌナズナへの処理後1時間から3時間で多くの遺伝子の発現量が変化するのに対し、PAA特異的に応答する遺伝子は6時間から12時間後に発現量が変化するものが多いことが明らかになった。IAAとPAAに共通して発現量が変化する遺伝子は、6時間後に発現量が変動するものが多いことも分かった。PAA処理により発現が変動する細胞壁関連、植物免疫関連、根発生関連の遺伝子については、定量PCR法を用いて発現量の精密解析を進めている。また、野生型のシロイヌナズナにPAAを処理し、これら標的遺伝子が関与する代謝物の内生量の定量および蓄積パターンの解析も行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNAseqのデータ解析を進め、シロイヌナズナにおいてPAA特異的に応答する遺伝子の機能解明が順調に進んでいる。これまでIAAとPAAの応答遺伝子の比較については、処理後1時間以内の早期応答遺伝子しか報告されていなかったが、24時間までに解析時間を伸ばして経時的な網羅的解析を行ったことにより、IAAとPAAそれぞれに特異的に応答する遺伝子群の発見に至った。現在、PAAまたはIAAを処理したシロイヌナズナにおける応答遺伝子の発現をそれぞれ詳細に確認するため、定量PCR法を用いて解析を行っている。 また、PAA特異的に応答する細胞壁関連、植物免疫関連、根発生関連の遺伝子について、さらに詳細な解析を行うため、シロイヌナズナにおけるこれら標的遺伝子の欠損変異体および過剰発現体の整備を進めている。さらに、野生型のシロイヌナズナにPAAを処理し、これら標的遺伝子が関与する代謝物の内生量の定量および蓄積パターンの解析も進めている。 シロイヌナズナにはIAA量が増加するとPAA量が減少し、反対にPAA量が増加するとIAA量が減少する相互調節機構が存在している。PAA特異的に応答する遺伝子に対するIAA処理の影響についても遺伝子発現および代謝物レベルで解析を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って、PAA特異的に応答する細胞壁関連、植物免疫関連、根発生関連の遺伝子について解析を進め、PAAが生体防御に重要であることを検証する。この目的のために、シロイヌナズナにおけるこれら標的遺伝子の欠損変異体および過剰発現体の整備し、その遺伝学的、生理学的および生化学的な解析を行う。 また、PAAとIAAをそれぞれ処理したシロイヌナズナにおける環境ストレス耐性を明らかにするため、細胞壁および生体防御関連代謝物の蓄積量や蓄積パターンについて調べる。さらに、PAAを過剰生産することできるシロイヌナズナのCYP79A2遺伝子過剰発現体を用いて、環境ストレス耐性や細胞壁関連代謝物の蓄積量などについて調べる。また、IAAを過剰生産することができるCYP79B2遺伝子過剰発現体も使って、IAAの蓄積がシロイヌナズナの環境ストレス耐性に及ぼす影響も調べる。さらに、RNAseq解析によりPAAが他の植物ホルモンの調節にも関与していることが示唆されたことから、シロイヌナズナのエチレンおよびブラシノステロイドの生合成遺伝子、サイトカイニン代謝遺伝子の発現量をそれぞれ定量PCR法により確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
緊急事態宣言に伴う研究活動自粛のため、その期間の消耗品の購入費用ならびに出張旅費を次年度に繰り越した。これらの予算については、次年度の遺伝学実験や生化学実験で使用する。
|