研究課題/領域番号 |
20K21425
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 淑子 京都大学, 理学研究科, 教授 (10183857)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 腸蠕動運動 / 振動波 / 腸平滑筋 / カハール介在細胞 / トリ胚 |
研究実績の概要 |
腸の蠕動運動機構の解明にむけて、トリ胚腸の筋肉層由来の細胞を用いた「収縮性オーガノイド」作製の技術開発を継続して進めている。さまざまな発生ステージや、腸内の異なる領域を検討した結果、10日目胚の後腸を用いた場合に腸収縮オーガノイドが効率良く作製できることがわかった。また、これらの腸収縮性オーガノイドへの遺伝子導入法の開発に向けて、Neonを用いたエレクトロポレーション法と、RCASウィルスベクターを用いた遺伝子感染を行ったところ、どちらも有効であることがわかった。さらに、作製された腸収縮オーガノイド内の構成細胞種を同定するために、特にカハール介在細胞(Interstitial Cells of Cajal:ICC)と平滑筋に注目した解析を行った。そのためには、トリ胚ICC細胞を特異的に認識する抗cKit抗体が必要不可欠であった。しかしながら市販の抗体が無かったために、cKitポリペプチドのウサギ注射によって得られた抗血清を用いて、免疫組織化学染色法の最適化を行った。結果、腸収縮オーガノイドにおいて、周辺細胞は平滑筋によって構成され、一方でそれに囲まれた内部細胞塊は主にICC細胞によることがわかった。また、オーガノイド作製条件の検討により、ほとんどICC細胞のみからなる細胞塊を得ることに成功した。本研究によって作製に成功した腸収縮性オーガノイドは、これまで未知であった腸蠕動運動におけるペースメーカーの実体解明とペースメーカーによるネットワークの理解に優れた解析系となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
cKitポリペプチド法による抗血清を用いた免疫組織化学染色法の最適化に、予想以上の時間と労力を要した。一般的に、市販抗体を用いた免疫組織化学染色では、組織のPFA固定法が広く用いられているが、今回の検討ではPFA固定は適さなかったことから、多くの異なる条件の試行を余儀なくされた。得られた抗血清がcKitを特異的に認識することは、並行して行ったウエスタンブロット解析でほぼ明らかになっていたために、免疫組織化学染色法の確立は大きな意味をもった。
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今後の研究の推進方策 |
抗cKit抗体の使用が順調に進み始めたので、今後は解離した腸平滑筋層由来の細胞が、どのようにして収縮性オーガノイドを形成するのかについて、その過程を詳細に観察する。また腸収縮オーガノイドの外部には平滑筋が、また内部にはICC細胞が分かれて存在することから、同じ中胚葉に由来するこれらの2種類の細胞群の特性分化を明らかにし、両者間の相互作用ネットワークと収縮運動との関連を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
cKitポリペプチド法による抗血清を用いた免疫組織化学染色法の最適化に、予想以上の時間と労力を要した。今後は抗cKit抗体を用いて同定するICC細胞を基軸とした解析を進める。その際、腸収縮性オーガノイドにあらかじめGCaPM遺伝子を導入し、ICC細胞内Ca2+の振動変化を定量化し、また平滑筋細胞間とのCa2+振動同期についても詳細な観測データをとる必要がある。次年度使用する予算はこれらの遂行のために、主に細胞培養関連試薬・器具や、遺伝子組換え用試薬などの購入にあてる。
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