研究課題/領域番号 |
20K21425
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 淑子 京都大学, 理学研究科, 教授 (10183857)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
|
キーワード | 腸蠕動運動 / 振動波 / 腸平滑筋 / カハール介在細胞 / トリ胚 |
研究実績の概要 |
世界で初の試みである「腸収縮性オーガノイド」を開発して、腸の蠕動運動機構の解明にむけた解析を進めている。用いるモデル動物は、この課題解決に様々な利点をもつニワトリ胚である。これまでに、蠕動運動のペースメーカー細胞といわれているカハール介在細胞(Interstitial Cells of Cajal:ICC)と平滑筋に注目した解析を行い、その過程において、トリ胚ICC細胞を特異的に認識する抗cKit抗体を独自に作製するなど、さまざまな技術開発を継続した。腸収縮性オーガノイド作製において必須であるマトリゲルに関しては、世界的に受容が一気に増加したことから入手が困難になっており、その代替として期待されるさまざまな基質を用いてオーガノイド作製への適合性の確認作業を進めた。腸収縮性オーガノイドへの遺伝子導入に関しては、Neonを用いたエレクトロポレーション法の条件最適化がさらに必要であることがわかった。つまりtransfection時における電圧が高すぎると遺伝子導入効率は上昇するが、一方で腸由来の細胞にダメージがあるなど、解決すべき問題点がみえてきた。これらのオーガノイド作製条件の検討過程において、オーガノイドを構成する細胞(腸平滑筋とICC細胞)の特定も少しずつみえてきた。たとえばdissociateした細胞が集合する際には、平滑筋細胞がICC間をブリッジをするなどの新規情報が得られている。これらはエビデント社が開発中の、CO2インキュベーター内での細胞培養状況をリアルタイムで可視化する新規装置(デモ機)によって明らかになってきた。本研究で開発する腸収縮性オーガノイドが、これまで未知であった腸蠕動運動におけるペースメーカーの実体解明とペースメーカーによるネットワークの理解に優れた解析系となることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腸収縮性オーガノイドの作製に必須であるマトリゲルが、世界中の需要急騰により入手困難な状況が生まれている。そこでマトリゲルの代替基質を探索する必要が生じた。また独自に作製したcKit抗体を用いた免疫組織化学染色法の最適化に関しても、依然多くの試行を余儀なくされている。
|
今後の研究の推進方策 |
腸筋肉層由来の解離細胞が徐々に集まっていく過程に関して新規知見が得られたことから、今後はより効率的なオーガノイド作製法の確立を試みる。cKit抗体による免疫組織化学染色法の最適化や、マトリゲルの代替基質の探索を継続して、周期的な収縮を起こす腸収縮性オーガノイドを再現性良く作製する。本研究で確立される腸収縮性オーガノイドの有利性をフルに活かして、オーガノイドを構成する腸平滑筋とICC細胞との相互作用を高解像度で解析し、蠕動運動をひきおこす細胞間ネットワークの実体を理解したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
抗cKit抗体を用いた免疫組織化学染色の最適化に必要な試薬を購入する。また異なるさまざまなマトリゲルの代替基質を購入し、その有用性を確認する。腸収縮性オーガノイドにあらかじめGCaPM遺伝子などを導入し、ICC細胞内Ca2+の振動変化を定量化し、また平滑筋細胞間とのCa2+振動同期についても詳細な観測データをとる必要がある。そのために遺伝子導入試薬の購入が必要である。これらの解析には常時トリ受精卵の購入が欠かせない上、一般的な細胞培養関連試薬・器具や、遺伝子組換え用試薬などの購入も必要である。
|