研究課題/領域番号 |
20K21427
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹中 瑞樹 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10796163)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | PPRタンパク質 / 転写開始点制御 / RNA結合タンパク質 / オルガネラ |
研究実績の概要 |
約35アミノ酸からなるPPR(Pentatricopeptide repeat) モチーフを繰り返しもつPPRタンパク質は塩基配列特異的なRNA結合タンパク質である。これまでの解析により、陸上植物ゲノムに数百個コードされているPPRタンパク質のほとんどはミトコンドリアや葉緑体などの細胞内共生オルガネラ内でRNAの転写、修飾、安定化、編集、翻訳など様々な転写後調節に関わっていることがわかってきた。最近の研究により、これまで主にオルガネラで働くと考えられたPPRタンパク質のいくつかが、赤色光シグナルによる転写開始点変化によってN末端側のオルガネラ局在シグナル配列を失い、細胞質に局在する可能性が示唆された。これらの短鎖PPRタンパク質はその構造上、細胞質でもRNA結合能を保持している可能性が高い。そのため本研究では、PPRタンパク質の細胞質内での隠れた機能を明らかにすることを目的とした。以下に当該年度に得られた成果を記す。 1)転写開始点が赤色光により変化するPPRタンパク質5種類のうち3種類について、シグナルペプチドを失った短鎖PPRタンパク質が細胞質に存在することをGFP融合タンパク質による細胞内局在観察により明らかにした。 2)上記のPPRタンパク質のT-DNA挿入株の解析を行ったが、いずれもホモ株を得ることができなかったため、胚発生の初期段階で発達が停止し致死である可能性が高い。これらの株についてはABI3プロモーターを用いて該当PPRタンパク質を胚特異的に発現させた株の作成を試みた。 3)短鎖PPRタンパク質の開始コドンを変異させたコンストラクトを作成し、長鎖PPRタンパク質のみで変異体を相補する株の作成をおこなった。 4)短鎖PPRタンパク質の細胞質内での標的RNAを明らかにするために、RNA immunoprecipitation (RIP-seq)をおこなう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)それぞれの転写開始点から転写されたmRNAより合成される長短のタンパク質をそれぞれのGFP融合タンパク質を過剰発現させ、細胞内局在の解析を行った。3つのPPRタンパク質については細胞質への局在が確認された。2種類については明確なシグナルを示す株を得ることができていない。 2)致死遺伝子について、ABI3プロモーターにより胚特異的に発現させることにより条件付き相補株の単離を試みている。 3)各PPRタンパク質遺伝子のシロイヌナズナノックアウト株に、長鎖または短鎖PPRのGFP融合タンパク質を過剰発現させた株の作成を行った。短鎖PPRタンパク質のみを導入した株では相補株が単離できていない。長鎖PPRについては相補株が単離されたものが2種類ある。 4)PPRタンパク質の細胞質内での標的の同定のために、RIP-seqの条件検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
長鎖PPRタンパク質を過剰発現させた形質転換体の表現型解析を行う。通常の生育条件では顕著な差が観察されていないが、光条件やさまざまなストレス条件下での表現型解析を行う。ノックアウト株が致死になるPPR遺伝子についてはABI3プロモーターにより、その遺伝子を胚特異的に発現させることにより条件付き相補株の単離を試みる。ABI相補株が単離できないものについては、ノックダウン株を作成し、その表現型解析を試みる。またPPR相補株を用いて、RIP-seqをおこない細胞質内でのPPRタンパク質の標的をあきらかにする。RNAの結合が不安定である可能性を考えて、UVクロスリンクの過程を含むCLIP法を試みる。また細胞質内でのPPRタンパク質と相互作用するタンパク質の同定も目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の拡大による研究計画変更等に伴い補助事業期間を再度延長を申請し、受理された。繰り越された予算は実験および学会発表、論文発表に使用する。
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