研究課題
概日時計は約24時間の地球の自転に応じた周期的な環境変化を予測するための仕組みである。しかし、地球上の環境変化は必ずしも規則的ではなく、多くのノイズを含んでいる。ノイズに対抗するためには、複数の経時システムを組み合わせることが有効であることが理論的には示されているものの、脳や神経系などを持たない植物において、複数の概日時計システム間でどのようなコミュニケーションが存在しているかについてはほとんど明らかにされていない。唯一、地上部から根へは光合成によって作られた糖が時間情報を伝えるシグナル因子として機能する可能性が指摘されていたものの、根から地上部へはどのような情報が伝えられているのか、そこにどのような概日時計遺伝子が関わっているのかは不明であった。本研究では根から地上部へと輸送される栄養素に着目し、接ぎ木や数理モデルを組み合わせることで栄養素が概日リズムに与える影響を解析した。まず、地上部および根における糖のリズムが振動していることを確認した後、糖濃度に応答する時計遺伝子を探索した。その結果、時計遺伝子のなかでもPRR7がもっとも糖に対して鋭敏な応答を示した。そこで次に、根におけるPRR7の役割を詳しく調べるために、接ぎ木によって地下部をprr7変異体、地上部を野生型にした植物を作出し、地上部における概日リズムを計測したところ、この植物では概日リズムの周期および位相が不安定化していて一定のリズムを刻めていないことが明らかとなった。また、prr7変異体ではカリウムの取り込みリズムに異常がみられたことから、カリウムの欠乏条件において同様の実験をしたところ、prr7変異体のような表現型を示した。以上の結果より、根においてPRR7はカリウムの取り込みリズムを調節することで地上部に時間情報を伝達し、地上部の概日リズムの安定化に寄与していることを明らかにした。
すべて 2023
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Plant and Cell Physiol
巻: 64 ページ: 352-362
10.1093/pcp/pcad003.