本研究は、in vitro、in vivoにおいて表皮幹細胞の糖鎖を若齢―加齢型へと改変し、分子機構を解明することで、糖鎖を基軸とした老化制御へ向けた基盤を創出することを目的に実施した。 加齢に伴う糖鎖変化の生物学的意義を明らかにするため、ドキシサイクリン依存的に表皮幹細胞でSt3gal2、St6gal1、Man1a遺伝子を誘導するTet-ONマウスを作製し、トランスジーンの発現および糖鎖変化の誘導ができることを確認した。St6gal1とMan1aを発現するトランスジェニックマウスにおいて、皮膚の脱毛、炎症、表皮幹細胞の増殖・分化異常が認められ、早期に皮膚老化表現型を示す可能性が示唆された。一方St3gal2過剰発現マウスにおいては顕著な表現型が認められなかった。以上により糖鎖の構造によって表皮幹細胞に及ぼす影響が異なる可能性が示唆された。 糖鎖の機能的役割を明らかにするためには、糖鎖修飾の違いが生じるコアタンパク質の同定が重要である。マウス表皮幹細胞の初代培養において、3種の糖修飾酵素(St3gal2、St6gal1、Man1a)を単独または同時に発現させた。この細胞を用いてシアル酸、マンノースに結合するレクチンプローブを用いた免疫沈降・質量分析を行い、rGal8Nプローブと結合を示す候補タンパク質を複数同定した。候補タンパク質には、デスモソーム構成タンパク質(Desmoglein、Plakoglobin、Desmoplakin)、核膜を構成しその修飾異常が早老症を引き起こすことで知られるLaminが含まれており、これらのタンパク質の糖鎖修飾異常が表皮幹細胞機能に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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