物理刺激の受容と応答は細胞の振る舞いを決定づける現象である。植物細胞は周囲の細胞と細胞壁を介して接着し、常に周辺組織からの力学ストレスにさらされており、植物細胞の力学応答の理解は、植物の発生を理解する上で欠かせない。動物細胞では細胞膜上のチャネル分子や細胞間相互作用、低分子量Gタンパク質や細胞骨格の寄与が明らかとなって来たが、植物細胞の物理環境は動物細胞とは全く異なるため、植物細胞ではこれまでに無い新たな仕組みがはたらいていると考えられる。そこで本研究では1細胞レベルで植物細胞の力学応答を解析する新規実験系を確立しその仕組みを明らかにすることを試みた。研究代表者の植物細胞の培養技術と分担者のマイクロニードルを用いた力学測定技術を組み合わせることにより、1細胞レベルで局所的、定量的に力学刺激を加え、リアルタイムで細胞内の応答を検出する方法を検討した。この手法に様々な細胞内レポーターや化合物を用い、植物細胞の力学応答を細胞以下のスケールで測定した。まず適した力学強度をもつマイクロニードルの作成方法を検討した。その結果AFMのカンチレバーを用いてキャリブレーションする方法が有効であることが判明した。さらにマイクロマニピュレーターおよび細胞培養装置のセッティングを検討し、培養細胞に対してスムーズにニードルをアプローチする方法を確立した。実際に細胞にニードルを用いて局所的に圧力をかけ、定量的な力学刺激を与えることに成功した。カルシウムセンサーであるGCaMPを発現させた培養細胞系を作出し、ニードルの力学刺激に対するカルシウム濃度の上昇を検出した。細胞骨格系の応答を見るためにマーカーラインを導入した細胞株を作出し、応答を観測する試みも行った。このように植物細胞特有の力学応答を解析する新技術の開発に成功しつつあり、さらなる取り組みにより、洗練された手法の確立につながると期待される。
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