• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実施状況報告書

浸透圧応答性分泌ペプチド群によるストレス情報の共有メカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 20K21437
研究機関東京理科大学

研究代表者

高橋 史憲  東京理科大学, 先進工学部生命システム工学科, 准教授 (00462698)

研究期間 (年度) 2020-07-30 – 2023-03-31
キーワード環境応答 / ストレス / ペプチド / 長距離シグナル
研究実績の概要

シロイヌナズナ培養細胞に浸透圧ストレス処理を行った後、培養液のみを回収して、脱塩、濃縮精製を行い、高分解能質量分析装置を用いて培養液中に含まれるペプチド、タンパク質を網羅的に同定解析を行った。その結果、浸透圧ストレス依存的に細胞外に放出されるペプチドを複数、同定することに成功した。さらにペプチドのアミノ酸配列への修飾を指標に絞り込みを行った。その結果、アラビノシル化修飾を受けるペプチドを選抜することができた。アラビノシル化修飾は、代表的なペプチド修飾の一つであり、シロイヌナズナでは茎頂分裂組織の分化、発達を制御するCLV3ペプチドにも見られる修飾である。アラビノシル化修飾を受けたCLV3は、ペプチド受容体との結合力が増加する。そこで本年度は、アラビノシル化修飾を受けていたペプチドに着目してその生理機能の詳細な解析を行った。目的ペプチド遺伝子の発現を制御するプロモーター領域を取得し、プロモーターGUS植物体を作成し、ペプチド遺伝子の組織特異的発現を解析した。その結果、ペプチド遺伝子は根や葉の維管束、特に根の維管束で強く発現していることを明らかにした。この結果は、浸透圧ストレスを感受した根の維管束で機能することを示す。次にペプチド-GFP植物体を作成し、ペプチドの細胞内局在を解析した。その結果、目的ペプチドは細胞のゴルジ体や細胞膜に局在していることを明らかにした。ゴルジ体や細胞膜は、細胞内タンパク質を細胞外へ放出するエキソサイトーシス経路に関わるオルガネラであることが知られている。これらの研究結果を併せると、目的ペプチドは根の維管束からペプチドの細胞外放出に関わる制御機構に深く関わっていることを示唆する。ペプチド遺伝子の変異体は、乾燥ストレスに弱い表現型を示すことも明らかとしたことから、ストレス情報の共有メカニズムを制御する重要な因子の同定に成功したといえる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

高分解能質量分析装置を用いて、浸透圧依存的に細胞外に放出されるペプチド群を多数同定することに成功した。また、アミノ酸のアラビノシル化修飾に着目しこれら多数の候補ペプチド群から数個のペプチドに対象を絞り込み、解析を行っている。そのうちの1つのペプチドに関しては、遺伝子破壊変異体を取得することができ、表現型解析を行った。その結果、乾燥ストレスに弱い表現型を示すことを明らかとしており、浸透圧ストレス応答で機能する新たなペプチド候補を同定することに成功した。特にサーモカメラを用いて、蒸散量の変化を指標に機構の開閉状態を解析した結果、コントロール状態でもペプチド変異体では蒸散量が高く、気孔が開いていることを明らかにした。この結果は、候補ペプチドが、ストレス依存的な気孔の閉鎖だけでなく、通常条件でも気孔の制御に関わる因子であることを示す。また候補ペプチドの組織特異的発現を解析した結果、根や葉の維管束、特に根の維管束で強く発現していることを明らかにした。さらにペプチド-GFP植物体を用いた解析から、候補ペプチドは細胞内のゴルジ体および細胞膜に局在していることを明らかにした。ゴルジ体や細胞膜は、細胞内タンパク質を細胞外へ放出するエキソサイトーシス経路に関わるオルガネラであることが知られている。これらの研究結果を併せると、目的ペプチドは根の維管束からペプチドの細胞外放出に関わる制御機構に深く関わっていることを示唆する。乾燥ストレス耐性試験および気孔の開閉状態の測定結果を併せて考察すると、植物は浸透圧ストレスや乾燥ストレスを常にモニターし、適切に気孔の開閉状態を制御していること、さらにこれまで明らかにしたCLEペプチドだけでなく、複数の長距離シグナルを使って気孔応答、ストレス応答を制御しており、複雑なペプチドシグナルネットワークの存在を示すことができた点も重要である。

今後の研究の推進方策

現在、CRISPR/Cas9法を用いて新たなペプチド変異体を作成中である。検出・同定したペプチド配列よりもN末端側にT-DNAが挿入された変異体は乾燥ストレス感受性を示し、C末端側にT-DNAが挿入された変異体はコントロール植物体と同程度に回復していたことから、同定したペプチド配列がプロセシングを受けて分泌型ペプチドとなり機能していることが考えられる。アミノ酸配列からプロセシングに関わる部位を予測しており、これら配列にアミノ酸変異を入れた変異体を作成しているため、今後はより詳細なペプチドのプロセシング気孔を明らかにしていく予定である。またペプチド変異体と野生型植物体を接ぎ木技術を用いて接合し、根から葉への長距離シグナル伝達における候補ペプチドの機能に関しても明らかにしていく。さらに葉でのABA合成酵素遺伝子の発現も解析する予定である。また、植物体内のカルシウムシグナルを可視化することができる実験系も立ち上げている。ペプチドシグナルとカルシウムシグナルのクロストーク応答も、今後解析する予定である。気孔応答では、アブシジン酸だけでなくカルシウムシグナルや活性酸素シグナルも関わることが報告されている。これら既存のシグナルと候補ペプチドシグナルがどのように相互作用しているかを解析することは非常に重要である。さらにこれまで申請者が報告しているCLEペプチドシグナルとの関連性も明らかにしていくことで、長距離シグナル伝達を介したストレス情報の共有メカニズムの解明を進めていく。

次年度使用額が生じた理由

本年度もコロナ渦の状況から、研究打ち合わせおよび学会発表のための旅費を使用する計画を修正する必要が出た。また移動先への研究器機の搬入日程がずれ込んだことや、所属移動先での予算使用開始が遅れたことも、使用計画の遅れにつながった。現在は新研究室の立ち上げも軌道にのり、研究遂行に必要な消耗品および外注解析にかかる費用を、順次使用している。従って次年度は、計画通りに予算使用を遂行する予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)

  • [雑誌論文] Affinity Purification Followed by Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry to Identify Proteins Interacting with ABA Signaling Components.2022

    • 著者名/発表者名
      Soma F, Takahashi F, Shinozaki K, Yamaguchi-Shinozaki K.
    • 雑誌名

      Methods in Molecular Biology

      巻: 2462 ページ: 181-189

    • DOI

      10.1007/978-1-0716-2156-1_14.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Use of Micrografting to Study the Role Played by Peptide Signals in ABA Biosynthesis.2022

    • 著者名/発表者名
      Takahashi F.
    • 雑誌名

      Methods in Molecular Biology

      巻: 2462 ページ: 101-109

    • DOI

      10.1007/978-1-0716-2156-1_8.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Transcriptome Analysis of Chloris virgata, Which Shows the Fastest Germination and Growth in the Major Mongolian Grassland Plant.2021

    • 著者名/発表者名
      Bolortuya B, Kawabata S, Yamagami A, Davaapurev BO, Takahashi F, Inoue K, Kanatani A, Mochida K, Kumazawa M, Ifuku K, Jigjidsuren S, Battogtokh T, Udval G, Shinozaki K, Asami T, Batkhuu J, Nakano T.
    • 雑誌名

      Frontiers in Plant Science

      巻: 12 ページ: 684987

    • DOI

      10.3389/fpls.2021.684987. eCollection 2021.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] シロイヌナズナにジャスモン酸経路とサリチル酸経路の双方の活性化を誘導する新規化合物の作用機構の解析2021

    • 著者名/発表者名
      朽津和幸,西田えり佳,北畑信隆,並木健太郎,舟橋汰樹,遠矢龍平,松本史織,菊池宏樹,前田健太郎,中澤裕,斉藤優歩,中野正貴,倉持幸司,安部洋,高橋史憲,橋本研志
    • 学会等名
      日本植物学会第85回大会
    • 国際学会
  • [学会発表] ゲノム編集によるジャガイモのデンプン合成系遺伝子の変異体作出と塊茎形質の改変2021

    • 著者名/発表者名
      島田浩章,竹内亜美,朝日貴大,大久保雪乃,赤津優菜,濱田香凛,伊藤広輔,浅野賢治,野田高弘,大沼万里子,寺村浩,田村浩二,高橋史憲
    • 学会等名
      第38回日本植物バイオテクノロジー学会大会
    • 国際学会
  • [学会発表] ジャガイモのアミロペクチン合成に関わるデンプン枝つけ酵素遺伝子欠損変異体の作出と形質の評価2021

    • 著者名/発表者名
      竹内亜美,浅野賢治,野田高弘,草野博彰,大沼万里子,高橋史憲,田村浩二,島田浩章
    • 学会等名
      第38回日本植物バイオテクノロジー学会大会
    • 国際学会

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi