研究課題
シロイヌナズナ培養細胞に浸透圧ストレス処理を行った後、培養液のみを回収して、脱塩、濃縮精製を行い、高分解能質量分析装置を用いて培養液中に含まれるペプチド、タンパク質を網羅的に同定解析を行った。その結果、浸透圧ストレス依存的に細胞外に放出されるペプチドを複数、同定することに成功した。さらにペプチドのアミノ酸配列への修飾を指標に絞り込みを行った。その結果、アラビノシル化修飾を受けるペプチドを選抜することができた。アラビノシル化修飾は、代表的なペプチド修飾の一つであり、シロイヌナズナでは茎頂分裂組織の分化、発達を制御するCLV3ペプチドにも見られる修飾である。アラビノシル化修飾を受けたCLV3は、ペプチド受容体との結合力が増加する。そこで本年度は、アラビノシル化修飾を受けていたペプチドに着目してその生理機能の詳細な解析を行った。目的ペプチド遺伝子の発現を制御するプロモーター領域を取得し、プロモーターGUS植物体を作成し、ペプチド遺伝子の組織特異的発現を解析した。その結果、ペプチド遺伝子は根や葉の維管束、特に根の維管束で強く発現していることを明らかにした。この結果は、浸透圧ストレスを感受した根の維管束で機能することを示す。次にペプチド-GFP植物体を作成し、ペプチドの細胞内局在を解析した。その結果、目的ペプチドは細胞のゴルジ体や細胞膜に局在していることを明らかにした。ゴルジ体や細胞膜は、細胞内タンパク質を細胞外へ放出するエキソサイトーシス経路に関わるオルガネラであることが知られている。これらの研究結果を併せると、目的ペプチドは根の維管束からペプチドの細胞外放出に関わる制御機構に深く関わっていることを示唆する。ペプチド遺伝子の変異体は、乾燥ストレスに弱い表現型を示すことも明らかとしたことから、ストレス情報の共有メカニズムを制御する重要な因子の同定に成功したといえる。
2: おおむね順調に進展している
高分解能質量分析装置を用いて、浸透圧依存的に細胞外に放出されるペプチド群を多数同定することに成功した。また、アミノ酸のアラビノシル化修飾に着目しこれら多数の候補ペプチド群から数個のペプチドに対象を絞り込み、解析を行っている。そのうちの1つのペプチドに関しては、遺伝子破壊変異体を取得することができ、表現型解析を行った。その結果、乾燥ストレスに弱い表現型を示すことを明らかとしており、浸透圧ストレス応答で機能する新たなペプチド候補を同定することに成功した。特にサーモカメラを用いて、蒸散量の変化を指標に機構の開閉状態を解析した結果、コントロール状態でもペプチド変異体では蒸散量が高く、気孔が開いていることを明らかにした。この結果は、候補ペプチドが、ストレス依存的な気孔の閉鎖だけでなく、通常条件でも気孔の制御に関わる因子であることを示す。また候補ペプチドの組織特異的発現を解析した結果、根や葉の維管束、特に根の維管束で強く発現していることを明らかにした。さらにペプチド-GFP植物体を用いた解析から、候補ペプチドは細胞内のゴルジ体および細胞膜に局在していることを明らかにした。ゴルジ体や細胞膜は、細胞内タンパク質を細胞外へ放出するエキソサイトーシス経路に関わるオルガネラであることが知られている。これらの研究結果を併せると、目的ペプチドは根の維管束からペプチドの細胞外放出に関わる制御機構に深く関わっていることを示唆する。乾燥ストレス耐性試験および気孔の開閉状態の測定結果を併せて考察すると、植物は浸透圧ストレスや乾燥ストレスを常にモニターし、適切に気孔の開閉状態を制御していること、さらにこれまで明らかにしたCLEペプチドだけでなく、複数の長距離シグナルを使って気孔応答、ストレス応答を制御しており、複雑なペプチドシグナルネットワークの存在を示すことができた点も重要である。
現在、CRISPR/Cas9法を用いて新たなペプチド変異体を作成中である。検出・同定したペプチド配列よりもN末端側にT-DNAが挿入された変異体は乾燥ストレス感受性を示し、C末端側にT-DNAが挿入された変異体はコントロール植物体と同程度に回復していたことから、同定したペプチド配列がプロセシングを受けて分泌型ペプチドとなり機能していることが考えられる。アミノ酸配列からプロセシングに関わる部位を予測しており、これら配列にアミノ酸変異を入れた変異体を作成しているため、今後はより詳細なペプチドのプロセシング気孔を明らかにしていく予定である。またペプチド変異体と野生型植物体を接ぎ木技術を用いて接合し、根から葉への長距離シグナル伝達における候補ペプチドの機能に関しても明らかにしていく。さらに葉でのABA合成酵素遺伝子の発現も解析する予定である。また、植物体内のカルシウムシグナルを可視化することができる実験系も立ち上げている。ペプチドシグナルとカルシウムシグナルのクロストーク応答も、今後解析する予定である。気孔応答では、アブシジン酸だけでなくカルシウムシグナルや活性酸素シグナルも関わることが報告されている。これら既存のシグナルと候補ペプチドシグナルがどのように相互作用しているかを解析することは非常に重要である。さらにこれまで申請者が報告しているCLEペプチドシグナルとの関連性も明らかにしていくことで、長距離シグナル伝達を介したストレス情報の共有メカニズムの解明を進めていく。
本年度もコロナ渦の状況から、研究打ち合わせおよび学会発表のための旅費を使用する計画を修正する必要が出た。また移動先への研究器機の搬入日程がずれ込んだことや、所属移動先での予算使用開始が遅れたことも、使用計画の遅れにつながった。現在は新研究室の立ち上げも軌道にのり、研究遂行に必要な消耗品および外注解析にかかる費用を、順次使用している。従って次年度は、計画通りに予算使用を遂行する予定である。
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Methods in Molecular Biology
巻: 2462 ページ: 181-189
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Frontiers in Plant Science
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