研究課題
本研究では、海洋メタゲノムデータから発見された赤色光受容体フィトクロムと青色光受容体クリプトクロムの構造を併せ持つ新型キメラ光受容体PHYCRYの遺伝子について機能の解明を進めている。論文化にともない、新型キメラ光受容体PHYCRYをDualchorome1(DUC1)と命名した。生物的機能解析については、シロイヌナズナの光受容体欠損変異体で相補解析を行うためにphyB、cry2欠損変異体へHA tagを付加したDUC1全長を導入した形質転換体を作製し、DUC1が発現していることを確認した。cry2変異体では胚軸徒長の形態が見られるが、cry2変異体のDUC1-HA形質転換体において胚軸徒長の抑制が観察され、DUC1により部分的相補されたことが示唆された。花成遅延の形態に関してはcry2変異体と有意差はみられなかった。phyB変異体へのDUC1-HA導入形質転換体は、胚軸徒長の抑制を示さず相補されないことが示唆された。これらのことからシロイヌナズナでDUC1はCRYの情報伝達経路を使い情報伝達している可能性が高いと予測している。プラシノ藻のゲノム解析については、Pycnococcus provasolii のゲノム中に光情報伝達因子の相同遺伝子が存在しているのか探索を行い、ポジティブ因子の分解調節を行なっているCOP1, ハブ転写因子であるHY5の相同遺伝子は存在しているが、PIF, BIC, SPAなどの因子の相同遺伝子は存在しないことが明らかになった。また、これらの結果をまとめ"Identification of a dual orange/far-red and blue light photoreceptor from an oceanic green picoplankton"としてNature Communicationsに投稿し採択され出版された。
2: おおむね順調に進展している
I. 分光学特性の解析については、当初の計画よりも解析が進み、2020年度に分光学的性質の解析を行うことができた。II. 生物的機能の解析については、2021年度は植物の光受容体欠損変異体での機能相補解析を進めることができた。プラシノ藻のPHYCRY欠損変異体の解析については、プラシノ藻の欠損変異体作成が成功していないことから計画よりも遅れている。III. プラシノ藻の全ゲノム配列の決定、光受容体遺伝子の系統解析については、2021年度に当初の計画より進んだことから、今年度は光情報伝達因子の相同遺伝子の探索を行なった。
II. 生物的機能の解析については、プラシノ藻のPHYCRY欠損変異体の作成を目指す。欠損変異体作成後に発現解析を計画しているが、より機能を明らかにできるように光に関する形態や特性による検証方法を探索する。
本年度に計画していた欠損変異体のRNA-seq解析を次年度に実施することにしたため、次年度に繰り越しを行った。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Nature Communications
巻: 12 ページ: 3593
10.1038/s41467-021-23741-5