研究課題
前年度の研究で,サクラマスの降海型ではサイズが小さいほど海に降るタイミングが遅いことが明らかとなり,海洋での高い死亡圧から免れるための生活史戦術であると考察した.今年度は,この小さな降海型個体の降海タイミングの遅れが,どのような行動様式によって実現しているのかを調べるための研究を行った.降海時期(春から初夏)を除きサクラマス幼魚は定住性が強く,特定の生息場所からはほとんど動かない.降海時期になると降海型の個体はもとの生息場所を離れ降河を開始し,下流域を通って海に降る.このことから,小さな個体の降海タイミングの遅れは,もとの生息場所での生活期間の長期化(降河の遅れ)か,降河中の期間の長期化によってなし得る.本研究ではどちら(あるいは両方)が働いているかを,PITタグ装着個体のサイズ情報と降海時期前後の行動データから調べた.結果として,降河の開始はサイズによらなかった一方で,降河期間は小さな個体ほど長いことがわかった.さらに,小さな個体は,緩流域である河川の下流において長く滞在している傾向があることを発見した.以上の結果から,サクラマス降海型は自身のサイズに応じて降河行動を変えていること,特に小さな個体は下流域に長期滞在し十分なサイズまで大きくなってから,海洋回遊を開始していることが示唆された.この他,採捕調査による発見もあった.春の採捕調査では,捕獲した複数のイワナが精子を排出することを確かめた.イワナの産卵時期は秋とされ,春の成熟は知られていない.同種における春の精子排出は新知見である.
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (2件)
Oecologia
巻: 198 ページ: 371~379
10.1007/s00442-022-05111-0
Environmental Biology of Fishes
巻: Online Early ページ: In press
10.1007/s10641-022-01213-z
Ichthyological Research
巻: 69 ページ: 194~196
10.1007/s10228-021-00823-4