本研究では、昆虫の飛行形態の「トレードオフ仮説」の検証を通して、昆虫の多様な飛行形態の進化メカニズムの解明を目指す。本年度は、数値計算による飛行性能の評価と共に、甲虫の硬さ測定、新しい飛行アリーナの構築によって、より包括的に甲虫の機械的デザインを評価した。また、昆虫の筋骨格シミュレータを構築し、その制御メカニズムについても調査した。 1)性能評価 前年度までに行った二種の甲虫に加えて、よりサイズの大きい二種の甲虫の翅運動の3次元再構築と効率・安定性の評価を行った。それぞれの種類で2-3個体、翅運動の再構築と、力のバランスを取るための翅運動の調整、効率の評価が完了している。 2)硬さ評価 飛行の際に鞘翅を開く甲虫と閉じる甲虫では、鞘翅の形態や構造が異なる。硬さ試験によって、甲虫の鞘翅の硬さを調べた結果、鞘翅を閉じて飛行する甲虫の鞘翅が、鞘翅を開いて飛行する甲虫と比較して優位に硬いことがわかった。ウズラを用いた実験の結果、硬い鞘翅を持つ種は攻撃を受けても損傷が少なく、この硬さが捕食に対する防御として機能していることがわかった。 3)昆虫誘導型飛行アリーナ 飛翔昆虫を複数の高速度カメラで撮影するのは容易ではなく、これが飛翔昆虫の性能評価のボトルネックとなっている。このため、飛翔昆虫の3次元的位置をリアルタイムで取得可能な撮影システムを、風速を動的に変更可能なアリーナに統合した、昆虫誘導型飛行アリーナを構築した。このアリーナによって、前身飛行中の昆虫の翅運動をより長時間撮影でき、より包括的な性能評価が可能となる。 4)筋骨格シミュレータ 昆虫の冗長かつ柔軟な筋骨格による翅運動制御の力学的なメカニズムを調べるために、電磁アクチュエータ等を用いた筋骨格シミュレータを構築した。本シミュレータによって、昆虫の翅の運動が再現可能であり、飛翔筋の力やタイミングの精度が力学的に重要であることがわかった。
|