研究課題
東南アジア山岳部に居住する焼畑農耕民は、焼畑で生産した米を主食とし、採集した野生植物を副食として生活してきた。野生植物には強い抗酸化作用をもつファイトケミカルが多く含まれており、その摂取は生体内における酸化ストレスおよび慢性炎症の抑制に寄与してきた可能性がある。近年の市場経済化によって食生活の変容がすすみ、野生植物の摂取量が減少していること、また食生活の変容にともなう腸内細菌叢が変化したことが、東南アジア山岳部でみられる非感染性疾患の増加の背景にあるという仮説を検証した。調査はラオス北部山岳地域にある3村落で実施した。食生活と身体活動にかかわる質問紙調査に加えて、糞便、尿、毛髪、濾紙血などの生体試料を収集した。これらのサンプルを用いて、酸化ストレス指標、慢性炎症指標、窒素炭素安定同位体比、重金属暴露指標、腸内細菌叢などを評価した。分析の結果、1)市場経済化により対象集団には生業システムの異なるクラスターが形成され、クラスターごとに食生活に違いがみられたこと、2)焼畑農耕から水田農耕への転換もすすんでおり、それにともないそれぞれの重金属の暴露パタンに変化がみられること、3)酸化ストレス指標あるいは慢性炎症指標と市場経済化には関連がみられること、4)腸内細菌叢には村落間差がみられたことなどが明らかになった。一般的に、健康転換は高エネルギー食の摂取と身体活動の不足によって引き起こされると考えられているが、その他にも、非感染性疾患の病態基盤である酸化ストレスおよび慢性炎症にかかわるファイトケミカルの摂取や腸内細菌叢の変化についても着目する必要があることが示唆された。
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