生物体を構成するタンパク質やその構成要素であるアミノ酸の安定同位体比はその生物の食性の指標となることが知られている。本研究計画では歯牙に存在するアミノ酸ごとの安定同位体比に基づき古生物・古人類の食性を復元する手法の開発をねらいとした。ターゲットとして、結晶性が高く長期間の保存が見込まれる歯牙エナメル質に着目し、その内部に存在するエナメル分泌タンパク等のタンパクおよびその構成アミノ酸を想定した。 研究計画の最終年度である本年度は購入した液体クロマトグラフィー(LC)/分取システムを用いた個別アミノ酸の単離メソッドを確立し、実資料に含まれるアミノ酸の定性・定量分析、およびその抽出を進めた。その結果、アミノ酸の同位体分析には30~40マイクログラムの窒素量を含む、数グラムオーダーのエナメル質の量が必要であることが判明した。 これまでに実施した研究全体の内容をまとめると、i)まずミャンマー等の国内外の共同研究者らから更新世まで遡る様々な時代の化石歯牙資料を入手することに成功した。その後、装置の移設および具体的な分析方法の検討に移り、ii)エナメル質資料の前処理法として塩酸による加水分解が使用可能であること、また使用時の反応条件(温度や時間)を検討し、iii)グラムオーダーのエナメル質粉末が同位体分析に必要となること、を明らかにした。今後はこれらの結果に基づき資料を処理し、個別アミノ酸の単離・精製と同位体分析と食性復元をさらに進めていく。
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