近年のゲノム解析の進展により、様々な生物種で異なる個体間での遺伝子の移動、すなわち遺伝子の水平伝播の痕跡が明らかとなっている。本研究では、寄生植物と宿主植物との間の水平伝播遺伝子を検出することで、寄生植物の宿主転換の歴史を解明することを目的としている。具体的には、小笠原諸島の固有種で根寄生植物であるハマウツボ科のシマウツボのゲノム解析を行い、宿主植物からの水平伝播遺伝子の痕跡を探索し、過去にどのような植物に寄生していたかを解明する。 1.野外調査:小笠原諸島の父島、弟島および母島で、シマウツボの調査を行った。弟島で新規に個体群を発見し、報告した。 2.宿主同定:今年度新たにシマウツボを採集した地点からは、先行研究と同様の方法で宿主根の分子同定(葉緑体DNAのtrnH-psbA領域)をおこなった。父島と弟島のシマウツボはヤロード、母島のシマウツボはオオバシロテツが主な宿主であることを確認した。 3.水平伝播遺伝子の探索:シマウツボ、ハマウツボおよびシマウツボの生育地の周辺に良くみられる固有樹種40種のRNA-seqのデータを解析した。DNAデータベースに登録されている他種のデータも含めて発現遺伝子の類似性を比較した結果、シマウツボにはハマウツボよりも系統的に離れた種と高い類似性を示す遺伝子が複数存在することが示された。この中には、現在の宿主であるヤロードやオオバシロテツ以外の種と高い類似性を示すものも含まれていることが明らかとなった。 4.ゲノムシーケンス:シマウツボについてPacbio Sequel IIを用いてロングリードシーケンスを取得した。今後ドラフトゲノムの構築し、上記の水平伝播遺伝子候補がシマウツボのゲノム上に存在することを確認する予定である。
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