「動物の体液は無菌的」という常識に反し、研究代表者らは海洋性無脊椎動物の体液(体腔液)に、1万細胞 /ml以上の細菌が普遍的・恒常的に生息し、それらが周辺海水や消化管等に存在しない特異微生物種であることを発見してきた。本研究は、マヒトデを対象とし(理由:体液にヒトの癌原因菌=ピロリ菌に近縁な特異微生物を大量に宿している。またマヒトデの甚大な漁業被害は喫緊の課題。かつ飼育や捕獲が容易)、その体液特異微生物の生態・生理機能を分子レベルで多元的に解明することを目的としている。具体的には天然・細菌移植実験下において、①体液中の微生物群集構造、宿主と微生物の②発現遺伝子、③代謝物質の3項目時系列解析を行い、「海洋性無脊椎動物は体液に特異微生物を宿し、新しい生理機能を獲得する」という斬新な仮説を検証する。 2021年度に実施したいくつかの飼育実験においてマヒトデの死亡速度が極めて速いものが存在し(宿主や水槽の状態に問題があったと思われる)、当該条件を対象としたトランスクリプトーム解析において結果の再現性を検証する必要があることが強く示唆された。そのため、当該飼育実験を2022年度に再度実施した。このことにより、研究の開始時点で予定していた飼育実験を完遂し、計画を上回る確度で成果を得ることに成功した。本研究を通じて、マヒトデにおいて体腔液中の微生物群集構造(多様性)や量の変化、さらには体腔液微生物および宿主の発現遺伝子、それらと関連づけが可能な宿主の死亡率・行動(摂餌量)等に関する知見を得ることに成功した。
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