研究課題
本研究は、陸上植物にもっとも近縁な接合藻類に注目し、植物の多細胞化と陸上進出に必須であった細胞間コミュニケーションの端緒を明らかにすることを目的としている。そのため、ヒメミカヅキモ、アオミドロを用いて、特にRLK遺伝子に注目した研究を進めている。ヒメミカヅキモのゲノムから、有性生殖期に顕著に発現量が高まる5つのRLK遺伝子を見出した。その中でも、c3291_RLK遺伝子に注目し、遺伝子破壊株の作出を進めた。この遺伝子はゲノム中に全く同じ配列を持つコピーが複数存在しており、-型細胞から2株の完全に遺伝子が破壊された株を取得したが、+型で破壊を試みた株では野生型配列が残っていた。有性生殖試験を行ったところ、遺伝子破壊株を含む全ての組み合わせでは、野生株同士と比較してペア形成や接合子を形成する割合は低下し、有性生殖の進行が顕著に抑制された。糸状性のアオミドロSpirogyra parvulaについて、ゲノムDNAを抽出し、得られたショートリードデータとNanopore long read dataをアセンブルした結果、total scaffold sizeが約56.6 Mb, scaffold数が32、Scaffold N50が2.66 Mb程度であると推定された。また、アセンブルされたゲノムから予測された176種のRLK遺伝子の存在を見出し、それらの機能を逆遺伝学的に解析するため、遺伝子導入系の確立を試みた。ヒメミカヅキモでの形質転換において有効であったCab遺伝子の相同遺伝子を探索し、そのプロモーターを取得した。さらにアオミドロ用にコドン使用頻度を合わせたgfp遺伝子を合成し、プロモーター下流に連結した。このコンストラクトをパーティクルガンでアオミドロに撃ち込んだところ、緑色蛍光を発する細胞を確認した。
2: おおむね順調に進展している
ヒメミカヅキモではRLK遺伝子の機能解析が進み、さらにアオミドロではRLK遺伝子の機能解析のための研究基盤が概ね順調に整いつつある。
アオミドロおよびヒメミカヅキモのゲノム中に含まれるRLK遺伝子の比較を行い、ヒメミカヅキモにおいて機能喪失もしくは欠落している遺伝子を特定する。アオミドロについては、安定した形質転換系を確立し、逆遺伝学的解析を可能にする。
コロナによる研究制限、物資不足、人手不足などが重なり、残額が生じた。ゲノム解読の受託解析を依頼費用、バイアウト経費としての利用、研究に必要な物品費、成果発表旅費などで利用する予定である。
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New Phytologist
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10.1111/nph.18662
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