研究課題
本研究は、陸上植物にもっとも近縁な接合藻類に注目し、植物の多細胞化と陸上進出に必須であった細胞間コミュニケーションの端緒を明らかにすることを目的としている。そのため、ヒメミカヅキモ、アオミドロを用いて、特にRLK遺伝子に注目した研究を進めている。今年度は、ヒメミカヅキモ、アオミドロのゲノム情報の整備が不完全であったことを踏まえて、PacBio HiFiによるlong read dataを用いたゲノムアセンブリを中心に進めた。糸状性のアオミドロSpirogyra parvulaについては、HiFiリードのアセンブル、Hi-C scaffoldingにより20本のscaffoldを特定した。またその合計長は、56.93 Mb, N50は2.76 Mbとなった。また、ヒメミカヅキモについては、HiFiリードのアセンブルによりNIES-67株で1549本、NIES-68株で1558本にまでcontig数が減少したが、依然としてアセンブルに難航した。用いたクローン系統株が長年の系統保存の間に変異を蓄積してしまい、おそらくすでにクローン株とは呼べない状況にまでなってしまっていることが示唆された。アオミドロについて、遺伝子機能の解析を行うための形質転換系確立を目指しており、プロトプラスト化させた後、糸状性個体にまで再分化させる方法を検討した。その結果、プロトプラスト化には、試した4種のセルラーゼのうち、1つだけが有効であり、その後、適切な回復条件にて、糸状性個体の再分化が起こることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
アオミドロについてはゲノム解読も進み、形質転換系確立のハードルとなるプロトプラストからの再分化系に目処が立ち、想定以上に順調である。ヒメミカヅキモについては、ゲノム解読がなかなか改善せず、遺伝子機能の解析を行うための基盤整備の上で、なお一層の注力が必要である。総合して、概ね順調に進展していると判断した。
アオミドロについては、プロトプラストにしたのち、外来遺伝子を導入する形質転換方法を検討する。また、ヒメミカヅキモについては、系統株のクローン化からやり直し、十分に繋がったゲノム情報をまず得る。さらに、アオミドロおよびヒメミカヅキモのゲノム中に含まれるRLK遺伝子の比較を行い、ヒメミカヅキモにおいて機能喪失もしくは欠落している遺伝子を特定し、機能解析に取り組む。
前年度までのコロナによる研究制限、物資不足、人手不足などが重なり、残額が生じた。その中でも、人手不足が大きく影響し、研究支援者を公募しても、応募者がおらず、難航している。今年度は、ヒメミカヅキモのゲノム解読費用に多くを充てる計画である。
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iScience
巻: 26 ページ: 106893
10.1016/j.isci.2023.106893
Genome Biol. Evol.
巻: 15 ページ: evad115
10.1093/gbe/evad115