研究実績の概要 |
本研究では、我々が発見した睡眠中におこる急激な大脳皮質毛細血管の血流の上昇が、どのようなメカニズムによっておこるのか、さらには、どのような生理的な役割を担っているのかの解明を目指している。生理的な役割の解明へ向けて、脳の間質液中の老廃物のクリアランスに重要であると考えられているグリアリンパ系に注目した。グリアリンパ系は脳の血管周囲腔などを経て老廃物を間質から除去している。レム睡眠中の大脳皮質の毛細血管血流の顕著な上昇には、毛細血管の上流にある動脈の拍動が関与している可能性が高い。この血管の拍動が血液のみならず、血管に隣接する血管周囲腔などの液体の流れもレム睡眠中に活性化していると考えた。そこで、無麻酔下で脳の血管周囲腔の液体の流れを可視化する方法を確立した。また、メカニズムについては、前年度までに、アデノシン受容体A2Aのノックアウトマウスでは血流上昇が大幅に低下していることを見出していた。今年度さらに、大脳皮質の血流上昇に関与する細胞種の特定に成功した。この細胞種を遺伝学的に破壊したところ、大脳皮質のレム睡眠中の血流上昇が大きく減少した。さらに、特定の疾患のモデルマウスでも大脳皮質のレム睡眠中の血流上昇が大きく減少していることを見出した。この疾患においてはレム睡眠中に本来起こる大脳皮質の毛細血管血流の上昇が起こらないことが、脳機能の低下をもたらしている可能性が生じた。なお、これまでに得られていた研究成果の一部について、国際的な科学誌で発表した(Tsai et al., Cell Reports, 2021)。
|