最終年度は、BUDOの性質に迫るため、マルチオミクスアプローチを積極的に活用した。ミクログリアは生後まもなく不均一性を示すが、発生過程において微小環境がミクログリアの不均一性に影響を与えるのか、またどのように影響を与えるのかは、依然としてほとんど分かっていなかった。本研究では、正常な発生過程における脳出血がミクログリア亜集団の転写的不均一性を誘導すること、そしてこれを原因としてBUDO構造が形成されたことが明らかになった。免疫組織化学と磁気共鳴イメージングを用いて、生後間もないマウスの健康な脳で脳内出血が起こることを発見した。出血は生後約2週間にわたって脳全体に観察され、生後1週間でピークに達するが、成体では観察されなかった。また、ミクログリアのサブセットが赤血球を貪食してBUDO構造を獲得し、ヘムオキシゲナーゼ1をコードするHmox1(HO-1)を非赤血球貪食性のミクログリアよりも有意に高いレベルで発現していることがわかった。赤血球貪食作用がミクログリアの転写特性に及ぼす影響を調べるため、Cx3cr1-Creマウス系統と、HO-1遺伝子をloxPサイトを介して欠損させ、DsRed遺伝子を挿入したHO-1-DsRedノックインレポーターマウス系統を交配した。HO-1-DsRedヘテロマウスを用いることで、赤血球を貪食するミクログリア(Cx3cr1-Cre::HO-1-DsRedfl/+)におけるHO-1-DsRed発現をモニターすることが可能になった。そして、生後2週目のDsRed陽性ミクログリアのscRNA-seq解析から、複数のミクログリア恒常性遺伝子が低い発現を示していた。本研究により,ミクログリアの多様性を誘導する環境因子として,発達期の脳内出血が関与することが明らかになった.
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