研究課題
本研究では、脊髄中心管周囲に配列し、脳脊髄液に接する未知の細胞である脳脊髄液接触ニューロンのもつ細胞構造や神経回路網、機能の解明を目指し研究を行った。本細胞は、脳脊髄液と接する特異な構造をもつことから、脳内外の生体環境の状態を反映する脳脊髄液の情報を感知し、中枢神経回路内へ情報伝達する細胞群であることが想定される。近年、ゼブラフィッシュやヤツメウナギでは、同ニューロンが運動中の機械刺激やpHを感知し、遊泳運動を制御することが示されてきたが、哺乳類においてその機能や実体はほとんどわかっていない。本年度は、独自に見出してきたAAVを用いた同ニューロンの標識法と、各種の遺伝子改変マウスや神経トレーサーを組合わせて、多様な脊髄ニューロン種との接続様式と機能の解析を進めた。まず透明化組織を用いて観察した結果、同ニューロンは軸索を腹側白質、吻側へと伸ばした後、複数の側枝を中心管周囲へと伸ばし、同種のニューロンと反回性にシナプス接続することを見出した。同ニューロンをdAPEX2で標識し3次元的に電子顕微鏡解析(SBF-SEM)を行った結果、前後軸におよぶ接続が確認された。また吻側へ伸びる同ニューロンの軸索を光刺激し電気生理学的に解析したところ、抑制性の接続を持つことがわかった。さらに同ニューロンは、体軸の筋を支配する運動ニューロン、運動に関わるV2aおよびコリン作動性の脊髄介在ニューロンとシナプス接続していることが組織学的に見出された。同ニューロンの神経活動を化学遺伝学的手法で抑制し、各種の運動テストにおいてDeepLabCutによる関節軌道の追跡と3次元キネマティック解析を行ったところ、トレッドミル上を速いスピードで走行できなくなることが明らかとなった。以上から、同ニューロンは脊髄内において運動関連ニューロンと神経回路網を作り、歩行運動に寄与している可能性が示唆された。
すべて 2023 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
eLife
巻: 12 ページ: e83108
10.7554/eLife.83108
細胞
巻: 55 ページ: 32-36
https://www.bri.niigata-u.ac.jp/research/result/001876.html