生体内における内在性タンパク質の分布を理解することは細胞の生理機能を理解する上で不可欠である。特異的抗体を用いた免疫組織化学は内在性タンパク質の分布を調べるための手法として広く使用されている。しかし、抗体は巨大分子であるが故、密な生体分子複合体の内部に局在するタンパク質を検出するのは容易でない。本研究は、そのような代表例として知られる興奮シナプスタンパク質の新たな検出方法を開発することを目的とする。本年度も引き続き、生体内ゲノム編集を用いて内在性タンパク質に化学プローブタグをノックインすることで、単一ニューロンにおける興奮性シナプスタンパク質の分布の可視化を試みた。前年度までに標識を得ていた分子に加え、AMPA受容体の別のサブユニットや、シナプスにおける細胞内シグナル伝達分子の標識にも成功した。厚みのある組織切片に組織透明化技術を応用することで、AMPA受容体が樹状突起に沿って点状に標識された単一ニューロンを丸ごと可視化することができた。このニューロンにおけるAMPA受容体の輝点を機械学習の手法を通じて半自動的に検出した結果、1つのニューロンから3000個以上の輝点の検出に成功した。以上の結果は、本手法が1つのニューロンにおけるシナプス分子発現を1シナプスの分解能で定量的に評価可能とする優れた方法であることを示している。一方、化学タグにより標識されたシナプス分子を電子顕微鏡にて検出することを試みたが、特異的なシグナルの検出には至らなかった。この点は今後の検討課題である。
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