CaMKIIの多量に存在する点、12量体蛋白質であるという点、さらにNMDA受容体(NMDAR)サブユニットGluN2BやTiam1といった一部の基質と安定した複合体を作る点が液-液相分離(LLPS)を起こすのではないかと考えた。そこでCaMKIIとGluN2Bを精製、混合した。Ca2+の非存在下ではLLPSを起こさなかったが、Ca2+/カルモジュリンで刺激すると、LLPSが起こった。しかも、一旦起こったLLPSはEGTAでCa2+をキレートしても継続した。LLPSには、キナーゼ活性は必要なかったが、EGTA添加後にも継続するためにはT286の自己リン酸化が必要であった。さらに我々はPSD-95、AMPA受容体(AMPAR)、シナプス接着因子ニューロリギンをCaMKII、GluN2B、カルモジュリンと共にLLPSを形成するかを検討した。Ca2+の非存在下では、CaMKII以外の蛋白質がLLPSを起こした。ここにCa2+を添加するとCaMKIIが濃縮相に加わると同時に、濃縮相がさらに2つに分離した。CaMKIIとGluN2Bが外側の相を形成し、AMPAR、PSD-95、ニューロリギンが内側の相を形成した。実際に超高解像顕微鏡による培養神経細胞のシナプス内の蛋白質分布を観察すると、AMPARとNMDARはお互いに分離して存在する。さらに、CaMKIIとGluN2Bとの相互作用を阻害すると、AMPARとNMDARの分離が減少した。このことは、CaMKIIがPSD内部の蛋白質の分布を制御していることを示唆している。ニューロリギンは、シナプス前部のニューレキシンを介して活性帯の蛋白質とも相互作用するので、この機構により、AMPARがシナプス顆粒の放出部位直下に濃縮される。これはシナプス可塑性の一つの機構である可能性がある。
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