研究実績の概要 |
自閉症は、社会的関係等に障害が認められる頻度が高い神経発達障害の1つである。病態の分子メカニズムはほとんど不明であり、多数の患者を説明できる明確な分子病因は同定されていない。本研究では、野生型マウスおよび申請者が独自に開発した妥当性の高いヒト型自閉症モデルマウス群を用いて、単一細胞レベルの解析を実施し、社会行動の制御に関わる神経細胞の機能解析、および社会行動を制御する神経回路の同定および同定した回路の操作の基盤技術を開発することを目的としている。本年度は、POGZ変異マウスにおける社会行動異常の分子メカニズムを明らかにするため、薬理学的な行動実験を実施した。その結果、オキシトシンの投与により、POGZ変異マウスの社会行動異常が回復することが明らかになった(Intranasal oxytocin administration ameliorates social behavioral deficits in a POGZ WT/Q1038R mouse model of autism spectrum disorder, Kitagawa et al., Molecular Brain 2020)。また、POGZ変異マウスではオキシトシン受容体の発現量が低下していることが明らかになった一方で、オキシトシン産生神経細胞には異常がないことが示唆された。さらに、POGZがオキシトシン受容体遺伝子のプロモーターに結合していることを明らかにした。これらの結果は、POGZがオキシトシン受容体の発現制御を通じて、オキシトシンシグナルを調節していることを示唆している。本年度は、POGZ変異マウスの社会行動異常の分子基盤の一端を明らかにすることができた。この成果は、単一細胞レベルの社会行動制御の解析を加速させるものである。
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