研究課題/領域番号 |
20K21465
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
田中 潤也 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (70217040)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 社会行動 / ラット / 恋愛 / 前頭前皮質 / ミクログリア / cFos / RNAseq |
研究実績の概要 |
1)行動実験:オスラットにモテる・モテないメスラットの判別は、主にパートナー・プリファレンステストPPTという、評価者バイアスがかからない方法で定量的判定を行なった。さらに、ラットの体同士が直接接触する社会性テストも同時に行い、両者が関連することを確認した。しかし、PPTは2匹のラットが交錯しないため、ビデオトラッキングシステムの計測ミスが生じない点で正確性が高い。結局、PPTによりモテるモテないを判定し、その上で種々の行動実験を行い、モテないメスは、多動で他者への関心が薄く、不安行動が少ないことが明らかになっている。 2)前頭葉遺伝子発現の解析:RNAseqにより、内側前頭前皮質での網羅的な遺伝子発現を解析し、モテるモテないラット間でその特性を分析する。また、免疫組織化学染色とウエスタンブロッティングも合わせて行う。 3)前頭前皮質の変化:現在我々は、「ミクログリアはグルタミン酸作動性シナプスを優先的に貪食除去するために、神経細胞興奮が抑えられ、行動抑制あるいは落ち着いた行動となる」との作業仮設を立てて研究を進めている。これに関連して、c-Fos発現を調べ、社会性行動との関連が知られる内側前頭皮質Prelimbic regionおよび眼窩前頭皮質、運動皮質(M1およびM2)の神経細胞活動を調べている。これらの前頭前皮質において、c-Fos発現が高いと、多動や落ち着きのなさが生じることがわかってきた。 4)薬理学的介入:BBB通過性アドレナリンbeta2アゴニストであるクレンブテロールはミクログリアを活性化し、行動を抑制し、モテないラットをモテるようにした。 5)生育環境の変化:多様な環境(enriched environment)を準備し、育てると行動が落ち着き、モテるようになることが判明してきた。これにも前頭葉の神経細胞興奮性の低下が関連していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
社会性に問題のあるラット(Lister hooded ratおよび我々が独自に樹立したEAGERと呼ぶラット)と本研究で用いているWistarの前頭葉における遺伝子発現をRNAseqにより比較した。現在詳細な解析を実行中腕あるが、モテないメスで目立つ落ち着きのない多動性は、内側前頭前皮質および眼窩前頭前皮質における神経細胞興奮性の高さ(IEGs; cFos, cJun, Egr2などの発現が高い)と関連する模様である。我々はミクログリアのシナプス貪食と関連づけて社会性行動の変化を検討しようとしてきたが、必ずしもミクログリアのシナプス貪食能の変化が直接の原因とは言いにくい可能性が出てきている。
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今後の研究の推進方策 |
確かに、ミクログリアの活性が低いことと多動あるいはメスがオスにモテないこととはリンクしているが、それが根本原因とは言いにくいことが見えてきた。一方、ADHDやASDに関係する他の研究から、豊かな環境での飼育は行動を落ち着かせることがわかってきた。このようなメスラットは、オスにモテる。このように生育環境を変えることで生じた、恋愛様行動の変化と遺伝子発現の変化を組み合わせた研究を進めていくこととしている。
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