本年度は、様々なタンパク質・ペプチドの液液相分離による液滴を作成し、ラマンイメージング・紫外励起ラマン測定を行った。特に水のラマンバンドを強度標準として用いることで、ラベルフリーでの単一液滴内構成成分の濃度定量が行えることを提案し、筋萎縮性側索硬化症関連タンパク質FUSのLC (Low-complexity) 領域 (FUS-LC)の液滴およびポリペプチドと4重らせんを形成するRNAからなる液滴に応用した。FUS-LCについては、液滴外に比べて液滴内では1000倍以上にFUS-LCが濃縮されていることを示し、pH、塩濃度によって液滴内のFUC LC濃度が変化することを明らかにした。液滴が作りにくい条件になるにつれて液滴内濃度が減少したが、試料調製時のFUS-LCの濃度に対しては液滴内の濃度は変化しなかった。これらの挙動は二成分系の相図によって説明することができた。ポリペプチドとRNAの液滴については、試料調製時のポリペプチドとRNAの比率を変えても液滴内の比率は一定となることがわかった。この二種類からなる液滴は静電相互作用によって形成されることで説明できる。ラマンスペクトルからRNAが4重らせんを形成しなければ液滴は形成しないことを確認でき、RNAの紫外共鳴ラマンを測定することで液滴内の構造変化の詳細を検討することを予定している。マシャドジョセフ病関連タンパク質Ataxin-3の紫外共鳴ラマンスペクトル測定を引き続き行い、凝集化によってラマンバンド間の相対強度が変化し、凝集化に伴う芳香族アミノ酸周囲の環境変化を検出していると考えている。本研究を通して、安定な液滴の作成とその場濃度定量の測定技術の確立に成功することができた。紫外ラマンについては、硫酸ナトリウムを強度標準とした濃度測定プロトコルを定め、タンパク質のラマンバンドの強度定量法を確立した。
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