研究課題/領域番号 |
20K21470
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩崎 憲治 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 教授 (20342751)
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研究分担者 |
竹中 聡 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 整形外科部長 (00588379)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 滑膜肉腫 / 構造解析 / 創薬 / SS18-SSX |
研究実績の概要 |
SS18-SSX1とSS18-SSX2, およびSSX1とSSX2に関する遺伝子を大阪国際がんセンター(大阪大学大学院医学研究科)の竹中聡博士から受け取り、以下のコンストラクトを作成し、大腸菌を使用しての発現系の確立、そして精製系の確立に挑んだ。(1)GST-SS18-SSX1-His(2)GST-SSX1(111-188)(3) SSX1RD(SSX1のC末端34残基)(4) SSX2RD(SSX2のC末端34残基). (1)について、C末端からの分解が起こることを確認し、N末端およびC末端の双方のタグによる精製で純度の高いタンパク質の精製に成功した。ネガティブ染色した試料のTEM観察では明瞭な形状が観察されなかった。CDスペクトルは、ランダムコイルに近い状態を示唆していた。金沢大古寺博士の協力で高速AFMを測定したところ、GSTと思われる球状部位から伸びた紐状の部分が粒子間で結合したり分離したりする様子が頻繁に観察された。これはC末端の極性残基領域で相互作用している現象を捉えたものであると推察した。また、本試料を用いて、同じく滑膜肉腫診断に使われているTLE1との相互作用検証も行った。 (3)および(4)についても発現・精製系の確立に成功したが、濃縮すると沈殿を生成した。(4)については沈殿生成が少なかったため、CDスペクトルの測定および2DNMRの測定を行い、1H-15N HSQCによって天然変性状態であることが分かった。また、凝集を形成する際にあるトリプトファンが関与していることもスペクトルから示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
染色体の相互転座の生成物は構造解析に堪えうるレベルの精製が難しいものが多く、SS18-SSXも精製が困難であることが予測されたが、大腸菌での発現および精製に成功した。ただし、天然変性であることが示唆され、当初計画していた結晶構造解析は単独では難しいことが分かった。本研究計画遂行中にBAF複合体のクライオ電子顕微鏡構造がロックフェラー、ハーバードの共同研究成果としてCell誌に報告された。それによるとBAF複合体の構成成分の一つであるSS18を構造の上では特定できなかったとうことである。クロスリンク質量分析によっておおよその場所が示唆された。このように構造解析の難敵であることが、示されたが、それと比較し、我々がタンパク質の単離精製に成功したことは評価できると判断する。このような試料の場合、通常プロテオリシスを受けやすいが、SS18-SSXも例外なくそうだった。しかし、プロトコールを改善することで全長構造の取得に成功した。また、SSXRDも極性残基がC末端に集中しており、解析困難が予測され、またその物性もすぐに凝集体を形成するなど非常に難しかったが、天然変性であることをNMRで示せたことは、次の戦略へとつながった。総じて研究は前進していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
SS18-SSXについては、BAF複合体における相互作用部位を特定し、その部分との複合体の結晶化を試みる。前述の米国のグループからのクロスリンク質量分析の報告に基づくと、近傍のポリペプチドはヘリックス構造を形成しているので、相互作用部位のフラグメントとの共結晶化のストラテージーは合理的であると判断する。また、SSXRDについては、ヌクレオソームとの複合体形成の検証を行い、複合体を形成した場合は、結晶化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、コロナ禍のためそもそも実験室活動の開始時期が遅れた。つぎに当初、SS18-SSXがすぐに分解されるという問題に直面し、その解決に手間取った。SSXRDについても同様である。しかし、その物性を特定できたので、次の共結晶化のストラテージができたために、今後は、様々なフラグメントをカウンターパートとして発現精製して、相互作用を調べ、共結晶化の可能性を探る。
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