研究課題/領域番号 |
20K21473
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
幸福 裕 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80737940)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 薬学 / 生物物理 / 蛋白質 |
研究実績の概要 |
(1) 安定同位体標識に適した哺乳細胞発現系の選択 核磁気共鳴(NMR)法を用いた創薬標的膜タンパク質の解析の前提となる、哺乳細胞発現系における安定同位体標識方法を確立するため、適切な発現系の選択、および構築を進めた。タンパク質の発現量をモニターするために緑色蛍光タンパク質(GFP)を、安定同位体標識率を算出するためにチオレドキシンを、膜タンパク質への適用可能性を検討するためにGタンパク質共役型受容体の一種であるβ2アドレナリン受容体を、それぞれモデルタンパク質として選択し、哺乳細胞発現ベクターを構築した。様々な哺乳細胞、発現培地、トランスフェクション試薬についてGFPの発現量を解析した上で、発現量、コスト、安定同位体標識の実現性の観点から、適切な発現条件を選択した。選択した発現条件を用いて、チオレドキシンおよびβ2アドレナリン受容体を発現し、精製した。その結果、いずれもNMR法を用いた解析に十分な収量、および精製度で得られることがわかった。 (2) 哺乳細胞発現系における安定同位体標識の条件検討 安定同位体標識をおこなうためには、培地に加えるアミノ酸の量やタイミングを、コスト・標識率・発現量の観点から最適化する必要がある。そこで、まずGFPを用いて、様々な組成の培地における発現量の比較をおこなった。また、血清などの添加物についても、その有無や添加のタイミングによる発現量の比較をおこなった。以上の検討結果をもとに、実際に安定同位体標識をおこなうための新たな培地組成・培養条件を考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ヒトを含む真核生物膜タンパク質の動的構造解析において、ボトルネックとなっている、哺乳細胞発現系の安定同位体標識法を新規開発した上で、創薬標的膜タンパク質の解析に適用することを目指している。本年度は、新たに哺乳細胞発現系を新規に立ち上げた上で、細胞・培地組成・トランスフェクション試薬など種々の条件の最適化も順調に進めている。また、安定同位体標識率の算出や、実際の創薬標的膜タンパク質への適用可能性について検討するため、それぞれチオレドキシンとβ2アドレナリン受容体を発現、精製し、NMR測定をおこなう条件も確立できた。以上のことから、当初の予定通り、順調に進展していると結論した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の検討結果をもとに考案した新規培地組成・培養条件を用いて、実際に安定同位体標識をおこなう。まず、安定同位体標識チオレドキシンを調製した上で、NMR解析をおこない、各アミノ酸の安定同位体標識率を定量的に評価する。標識率が十分でない場合は、得られたデータをもとに、さらに培養条件などをコスト・標識率・発現量の観点から最適化する。安定同位体標識条件が確立できた場合には、β2アドレナリン受容体に適用し、NMR解析をおこなうことで、実際の創薬標的膜タンパク質への適用可能性を判断する。また、実際に哺乳細胞発現系が有用な、様々な創薬標的膜タンパク質への適用可能性を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度において、哺乳細胞発現系を用いた膜タンパク質の解析が多数報告された。当該文献を調査した結果、当初の計画に加えて、さらなる発現条件の検討が、発現量の向上に有効であることが示唆された。令和2年度においては、このことをふまえて、小さな培養スケールでの発現条件の検討を集中的におこなったため、使用額が当初の予定を下回った。令和3年度では、大きな培養スケールでの標識率の算出と、創薬標的膜タンパク質への適用可能性の検討に費用を要するため、次年度使用額と請求分をあてる。
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