(1)哺乳細胞発現系における安定同位体標識法の改良 前年度までに、哺乳細胞発現系における安定同位体標識に成功していた。一方で、膜タンパク質に適用した場合に、発現量が十分でないこと、および、アミノ酸によっては、標識率が低いことが課題であった。発現量向上のため、哺乳細胞の種類、遺伝子導入方法を検討した結果、膜タンパク質の一種であるβ2アドレナリン受容体について、高発現量で知られている昆虫細胞発現系を上回る、単位培地あたりの発現量を達成できた。また、標識培養条件の改良により、膜タンパク質の平均的な膜貫通領域のアミノ酸組成において、約70%となる高い標識率を達成できた。以上により、膜タンパク質のNMR解析に利用可能な、哺乳細胞発現系の安定同位体標識法が確立できた。 (2)創薬標的膜タンパク質への応用 細胞膜表面には、多数の膜タンパク質が存在し、それらが複合体を形成することで生理機能を発揮している。そのような膜タンパク質複合体は、創薬標的となりうるが、その構造と機能については不明な点が多い。そこで、複合体を形成する膜タンパク質としてテトラスパニンを取り上げ、確立した安定同位体標識法を用いて、NMR解析をおこなうこととした。(1)で確立した条件で、テトラスパニンの発現をおこなった結果、NMR解析に十分な収量で試料が調製可能であることが示唆された。このことから、本研究で確立した手法により、様々な創薬標的膜タンパク質の動的構造解析が可能となる基盤が確立できたと結論した。
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