研究課題/領域番号 |
20K21474
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
玉井 郁巳 金沢大学, 薬学系, 教授 (20155237)
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研究分担者 |
中島 美紀 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (70266162)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 食品 / トランスポーター / OATP2B1 / リンゴ / ASBT |
研究実績の概要 |
本研究では、食品成分の新たな生体への作用として、食品に多く含まれる細胞外小胞(ナノ粒子)に着目した研究を進めている。ナノ粒子の作用に関する情報は極めて限られているため、本研究ではリンゴを食品とし、消化管機能に対する作用を検討した。超遠心法によりナノ粒子を調製した。ナノ粒子中含有成分は多様であると推定されるが、その成分の特性として含有高分子が新しい機能を有すると考えた。その結果、リンゴ由来ナノ粒子中にはリンゴ特有のマイクロRNAの存在が確認された。また、その中には、対象とした消化管機能分子として医薬品を含む多様な分子の膜透過に働くトランスポーターOATP2B1遺伝子の3’-UTRへの結合性が予測されるマイクロRNAが存在していた。既に、リンゴナノ粒子を作用することで消化管由来細胞においてOATP2B1の発現抑制を検出しているが、そのメカニズムとしてマイクロRNAの関与を示唆された。また、OATP2B1の発現について、消化管においても元来マイクロRNAによる調節を受けるかについても検討を行い、特定のマイクロRNAであるmiR24の同定に成功した。即ち、OATP2B1は生理的にもマイクロRNAによる調節を受けることを実証した。さらに、ナノ粒子の細胞内移行メカニズムについて検討した。その結果クラスリン依存性のエンドサイトーシス機構が考えられ、ピノサイトーシスやカベオリン依存性のエンドサイトーシスは寄与が小さいものと推定されるなどの結果が得られた。OATP2B1以外にも同じく消化管に発現する胆汁酸トランスポーターASBTについての検討を並行して進展させた。まずは、胆汁酸測定方法として新しく蛍光標識胆汁酸による測定方法を樹立することができた。以上、本研究を幅広く進展させることができ、またナノ粒子の多様な作用を示唆する結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リンゴ中含まれるナノ粒子の消化管機能に対する作用を検討した結果、一定の進展が得られた。具体的には、ナノ粒子の形態、含有物としてのマイクロRNAの確認、Caco-2細胞におけるトランスポーター発現のmRNAならびにタンパク質レベルでの変動、ナノ粒子の細胞内移行機構、変動するトランスポーターの一つOATP2B1のマイクロRNAによる発現調節などの成果を得ることができた。また、消化管において生理的にもOATP2B1がマイクロRNAにより発現調節されることを実証し、学術論文として掲載されるに至った。さらに、OATP2B1のみならず、リンゴナノ粒子により発現変動が見られた胆汁酸トランスポーターASBTに着目した検討を開始した。その成果としては、ASBT活性評価に必要な胆汁酸定量方法を新たに樹立できた。このうち、ナノ粒子の細胞内移行機構としてクラスリン依存性エンドサイトーシスについては学術論文として掲載に至った。また、ASBT評価のための胆汁酸定量法についても学術論文として掲載に至った。以上より、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
OATP2B1のリンゴナノ粒子による発現抑制機構として、リンゴ特有のマイクロRNAによることを明確にする。既に検出したOATP2B1遺伝子の3’-UTRと作用する可能性のあるリンゴ由来マイクロRNAについて、その分子を同定する。そのためにはOATP2B1遺伝子3’-UTR上の結合部位を特定する、その手法として、予測された結合部位の核酸塩基を置換し、結合性および作用が低下するかを検討する。さらに、マイクロRNA阻害剤ならびに合成マイクロRNAによる作用の再現試験を行う。さらに、マイクロRNA作用に必要なAGOタンパク質の関与など、推定された作用機構について多角的に検討する。同様に、ASBTについてもマイクロRNAの関与の有無の検討を進める。全体として、食品含有ナノ粒子に含まれる高分子(マイクロRNA)が直接消化管機能を調節することを実証する。本成果は、食品機能として、含有される高分子が直接ヒトに作用するという新しい食品機能の存在を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りの使用であったが、端数の残額が生じた。次年度も継続的に研究を行うため、端数処理のための支出は非効率であったため、次年度に繰り越すことになった。
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