研究課題/領域番号 |
20K21475
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
加藤 将夫 金沢大学, 薬学系, 教授 (30251440)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 妊娠高血圧症候群 / 遺伝子組換えタンパク質 / アミノペプチダーゼ / アンジオテンシン / 薬物動態 / 降圧薬 / 動物モデル / 質量分析装置 |
研究実績の概要 |
本研究では、高血圧への関与が示唆されるangiotensin II (ANG II)の加水分解酵素であるaminopeptidase A (APA)のヒト型遺伝子組換えタンパク質を合成し、妊娠高血圧症候群治療への有用性の検証を目的とした。ヒトAPA細胞外ドメインのC末端にHisタグを付加した配列をpCAGSベクターに組み込み、Expi293F細胞に遺伝子導入後、3ないし7日間振とう培養した。培養上清をNiカラムでアフィニティー精製、さらにゲルろ過精製し、遺伝子組換えタンパク質rhAPAを得た。電気泳動後のCBB染色で、高純度の精製タンパク質が得られたことが確認できた。さらにwestern blottingによって精製タンパク質由来のバンドが確認されたことから、免疫原性を有する組換えタンパク質であることが示された。rhAPAを、APA基質であるglutamyl methylcoumarin amide (Glu-MCA)とインキュベーション後、加水分解産物であるMCAの蛍光を測定することでAPA活性を評価したところ、精製後の画分でAPA活性が検出されたことから、生物活性を有する組換えタンパク質の精製が確認できた。さらに、ANG IIと、加水分解産物ANG IIIの測定系を液体クロマト質量分析(LC-MS/MS)を用いて確立し、rhAPAによるANG II加水分解活性を測定したところ、rhAPAによるANG IIIの時間依存的な生成が確認されたことから、少なくともin vitroで本研究の目的に合致する活性が示された。得られたrhAPAをマウスに静注すると、血漿中Glu-MCA加水分解活性は非投与群や投与前よりも増加したものの、投与後比較的速やかに血漿中から消失した。したがって、組換えタンパク質はin vivoでも生物活性を示す一方で、体内動態の改善が必要と考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
妊娠高血圧症候群は母子ともに致命的な合併症を伴う一方で、多くの降圧薬が胎盤を通過し妊婦に禁忌であるため、有効な薬物療法に乏しい。APAは高分子であるが故に胎盤を通過せず、元来ヒトに存在するタンパク質であることから、既存の低分子降圧薬よりも胎児毒性が少ないことが期待される。そこで本年度はその組換えタンパク質の合成系の確立、得られた組換えタンパク質の加水分解活性と体内動態の評価を目標に検討を行った。組換えタンパク質の合成においては、遺伝子ベクターの構築、遺伝子導入や細胞培養の最適化、タンパク質精製系の確立、その分子サイズ、免疫原性、酵素としての活性の評価系確立など、数多くの実験系確立を必要とした。今年度は、これらすべての確立を目指し、種々の条件検討を行ったところ、いずれも期待通りの成果を得ることができた上、純度の高い、生物活性を有した遺伝子組み換えタンパク質rhAPAを得ることができた。さらに、得られたrhAPAのin vivoでの体内動態の評価に必要なバイオアッセイ系と抗His tag抗体を用いたwestern blotも確立することができた。rhAPAは高分子であるため、低分子化合物とは異なり、その体内動態を完璧に評価する系はなく、一長一短のある複数の評価系構築が必要であった。この点で、本研究においてバイオアッセイとwestern blotの両方で血漿中rhAPA濃度が評価できた点は、今後の精密な体内動態解析を可能とする点で大きな進歩である。実際、マウスに静脈内投与後の血漿中濃度推移や血漿中生物活性の増加にも踏み込んで解析することができたため、予想以上の研究の進展と判断した。一方で、市販のAPA抗体と組み合わせた複数のrhAPA抗体を用いたsandwich ELISAの系は確立することができず、より抗原認識性の強い抗体が必要と考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
得られたrhAPAをマウスに静脈内投与したところ、投与前に比べた血漿中APA活性の増加が見られた一方で、その活性は半減期数時間で血漿中から消失した。このことは、western blotで評価したrhAPAのバンドの濃さが同様の速さで消失していたことと対応しており、血漿中でのrhAPAの安定性が十分ではない可能性を示した。そこで、その改善を目指して種々の融合組換えタンパク質をデザインし合成するとともに、その生物活性や体内動態を評価する予定である。すでに融合タンパク質の遺伝子ベクターの構築と、細胞での発現や精製の予備的検討を進めており、次年度はこの融合組換えタンパク質の合成系の確立、得られた組換えタンパク質の加水分解活性と体内動態の評価を目標に検討を行う予定である。 さらに、得られた組換えタンパク質rhAPAの妊娠高血圧症候群モデル動物を用いた薬効評価が最も重要な課題である。そのためには安定した結果の得られる障害モデル動物の作製が必須であるが、マウスを使って予備的に構築したreduced uterine perfusion pressureやN-nitro-l-arginine methylesterモデルでは安定した血圧増加が見られず、今後、実験条件を改善して系の確立を行う予定である。また、妊娠高血圧症候群モデル以外にも、rhAPAの薬理効果をin vivoで評価できる系をその前段階として確立する必要があるとも考えられるため、最もシンプルな実験系としてANG IIを持続静脈内投与することによる高血圧モデルマウスの作製も検討する。 さらに、ANG IIやANG IIIの微量濃度測定系の開発にも着手する。これらペプチドは生体内での安定性に乏しく、濃度の絶対値も低いため、LC-MS/MSのカラムや溶出条件、前処理等を改善することにより測定感度の向上をはかる予定である。
|