研究課題
これまでに得ていたRNAアプタマーR12分子の配列を基にして、これよりはるかに高い抗プリオン活性を示すRNA分子を取得した。このRNA分子の立体構造をNMR法によって決定し、プリオンタンパク質との相互作用の様式を同定した。この結果に基づいて、高い抗プリオン活性がもたらされる理由を解明した。細胞表面のPrPによってAβオリゴマーの病因性シグナルが細胞内に伝達されると、記憶と関係する長期増強(long-term potentiation, LTP)が消失する事が、海馬切片を用いた解析から示された。一方あらかじめPrPに対する抗体を作用させると、LTPは消失しない事が報告されている。そこで、京都大学工学研究科の森泰生教授・中尾章人助教との共同研究で、海馬切片をまず初めにR12とプレインキュベートし、次にAβオリゴマーとプレインキュベートしたところ、LTPの消失を免れる事が分かった。次に、海馬切片をまず初めにAβオリゴマーとプレインキュベートし、次にR12とプレインキュベートした場合でも、LTPの消失を免れる事を示唆する結果が得られつつある。即ち、PrPとAβオリゴマーが相互作用しているところに後からR12を作用させて、LTPの消失をもたらしている既に存在する相互作用を断ち切ってLTPを復活させられる可能性が示唆された。なお、抗体に関してはこのような効果は報告されていない。タンパク質と標的RNAの相互作用に関し、上記とは異なる系に関しても解析を進め、相互作用様式を解明した。
2: おおむね順調に進展している
R12よりはるかに高い抗プリオン活性を示すRNA分子を取得し、その立体構造の決定に基づいて、高い抗プリオン活性がもたらされる理由を解明する事に成功した。海馬切片を用いた実験から、記憶と関係する長期増強(long-term potentiation, LTP)がアミロイドβ(Aβ)オリゴマーによって消失する事と、消失したLTPをRNAアプタマーによって復活させられる可能性を示唆する結果が得られつつある。
Aβによって消失したLTPを、RNAアプタマーによって復活させられる事を、実験の試行回数を増やして確定させる。この事が確定できれば、Aβオリゴマーの病因性シグナルによってLTPの消失という病的な状態に一旦陥っても、ここにR12を作用させればこれを解消して復活できる事を意味し、これはR12を治療に応用するという観点からは、非常に望ましい成果となる。
Covid-19の感染拡大に伴い研究活動が制限を受けた為、当初2020年度に予定していた実験の一部を2021年度に行う事とした為に、次年度使用額(B-A)が0より大きい値となった。2021年度には当該実験も遂行するので、翌年度分として請求した助成金と合わせてすべてを使用する計画である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
Int. J. Mol. Sci.
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Scientific Reports
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10.1038/s41598-020-61966-4
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http://www.iae.kyoto-u.ac.jp/bio/