現在、ワクチンでがんの治療を試みるがんワクチンが注目されている。しかし、抗原とアジュバントを、リンパ節・樹状細胞へ適切に送達し得るキャリアの欠如から、未だ、普遍的な革新的がん治療法として確立されていない。本研究では、「体内に普遍的かつ大量に存在する自然抗体に対して強固に結合可能なヒッチハイクペプチド」を用い、体内の抗体を送達キャリアとして活用することで、抗原の動態を最適化する“ヒッチハイクワクチン”とも言うべき新たながんワクチンの概念を構築する。 申請者は2020年度までに、マウス体内に存在する自然抗体に結合する約10種類のペプチドをファージ表面提示法で取得している。さらに、抗原蛋白質と本ペプチドとの融合蛋白質をマウスに免疫することで、抗体産生を増強可能であることを見出している。そこで2021年度は、本ヒッチハイクペプチドをMHCクラス1エピトープペプチドと融合することで、抗原特異的CD8陽性細胞を効率的に誘導可能か検証した。しかし、マウスにアジュバントと共にワクチンした結果、未修飾のペプチドと比較して、抗原特異的CD8陽性細胞の有意な活性化は観察されなかった。そこで、本ヒッチハイクペプチドの性能を向上させるため、ファージ表面提示法を用いて異なるペプチドをスクリーニングしたところ、自然抗体により強固に結合可能なペプチドを複数得ることに成功した。一方で、これら新たなペプチドを用いても、抗原特異的CD8陽性細胞の向上を達成するには至らなかった。以上の結果から、本ヒッチハイクペプチドを用いることで、抗原特異的抗体を産生増強するという第一の目標は達成できたものの、抗原特異的CD8陽性細胞を向上させる第二の目標を達成することは現段階では困難であることが判明した。今後、用いる抗原ペプチドを工夫するなど、さらなる改良が必要であると考えられる。
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