研究課題/領域番号 |
20K21482
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
須藤 雄気 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10452202)
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研究分担者 |
山田 勇磨 北海道大学, 薬学研究院, 准教授 (60451431)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | ロドプシン / 光 / 生物物理 / pH / リポソーム |
研究実績の概要 |
【目的】物理化学(代表者)と薬剤学(分担者・協力者)の融合による光誘起崩壊リポソーム:Light-induced Disruption of Liposomes(LiDL)の開発と、それに基づく新奇薬物送達手法の確立。【背景】狙った時間と場所に薬物を届け・働かせることは、薬学における大きな『夢』である。【計画】光受容タンパク質・ロドプシンとpH感受性ポリマーおよび任意の化合物(薬物)を内封させたリポソームを開発することで、時空間制御性に優れた『光』により、狙った時間・場所で薬物を放出させる新奇手法を確立する。【意義】薬学における『夢』の一つを叶える手法となり、大きな波及効果をもたらす。
具体的には、光受容タンパク質「(1) ロドプシン(H+ポンプ・チャネル)」と「(2) pH 感受性ポリマー」を含む「(3) リポソーム」を作成する。その際、「(4) 化合物 (薬物)」を内封させる。このリポソームに「(5) 光」を照射すると、ロドプシンが活性化され、リポソーム内外のpH が大きく(> 5 ユニット)変化する。これにより、pH 感受性ポリマーの物理的形状が変化し、リポソームが崩壊し、化合物が「(6) 放出」される。LiDL と命名するこの手法は、時空間分解能に優れた「光」により薬物を放出させるという、新奇かつ独創性・汎用性の高い薬物送達(DDS)手法になる。本年度は、ロドプシンを組み込んだリポソームの作成と、光によるpH変化を定量的に測定し、ロドプシン組み込みリポソームが狙い通りに機能することを明らかにした。今後は、このリポソームにpH感受性分子を組み込むとともに、光により崩壊するかを内部に導入する蛍光分子の蛍光変化により確認する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2つの研究課題:『1. ロドプシンの調製とリポソームへの再構成+2. pH感受性リポソームの調製』と、それらを融合した2つの研究課題:『3. 光誘起崩壊リポソームの確立』+『4. 生体での実証』からなる。 本年度は、「1」. ロドプシンの調製とリポソームへの再構成を行った。ここでは、代表者が発見したロドプシンを用いた。具体的には、外向きプロトン(H+)ポンプとして、安定性が高いTR, RxR, VirR、および 内向きH+ポンプ・RmXeRを対象とした。これらをリポソームに再構成し、リポソーム外(内)の光誘起pH変化を検証したところ、RmXeRを組み込んだリポソームで大きな(リポソーム崩壊に充分な)pH変化が見られた。また、種々の物性解析(粒子径、安定性など)から、今後の研究に耐えうることを確認した。このように、「1」については、完了しており、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、「2」. pH感受性リポソームの調製に進む。ここでは、pH変化で重合度が変化するpH感受性ポリマー(ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド):PNIPAM、多分岐性ポリグリシドール)を蒸発法・希釈法により調製したリポソームに再構成する。リポソーム組成は、様々な脂質を様々な濃度比で混合することで調製する。得られたリポソームに対し、pH感受性を確認するとともに、様々な塩強度・温度における安定性を測定・評価する。これらの検討が済み次第、「3」. 光誘起崩壊リポソームの確立を行う。ここでは、「1 , 2」を融合し、ロドプシン内包pH感受性リポソーム を調製する。化合物(薬物)は、溶液中で消光するフルオレセインを初期モデルとする。得られたリポソームがpH変化で崩壊するかを、暗所下で様々なpHにおける蛍光測定により調べた後、光光依存的なリポソーム崩壊を調べる。研究がうまく進展しない場合は、ロドプシンの変更、リポソーム調製法の改良を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、コロナ禍により、当初予定していた研究分担者(北海道大学・山田勇磨博士)との研究室間技術・情報交換を意図した交流旅費を使用できなかった。そのため、オンライン(Zoom)を利用することで代替することとした。また、研究室内に現存した備品および消耗品を用いて、ロドプシン組み込みリポソームの調整とその分析が順調に進んだため、消耗品も予定よりも少額で済ませることができた。今後予定しているpH感受性リポソームの調製や生体への適用には多くの費用が想定されるため、これらに充当することで研究を加速させたい。
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