研究課題/領域番号 |
20K21483
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
重永 章 福山大学, 薬学部, 教授 (10423394)
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研究分担者 |
大高 章 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (20201973)
伊藤 孝司 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (00184656)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | タンパク質半合成 / ネイティブケミカルライゲーション / ペプチドチオエステル / タンパク質化学 / ペプチド化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、翻訳後修飾部分に多様性を有するタンパク質ライブラリ精密構築法の確立と、高活性GM2活性化タンパク質(GM2AP)の発見を目指す。GM2APとは、GM2AP欠損型リソソーム病に対する補充療法に用いられるタンパク質である。 近年、タンパク質医薬品が広く注目を集めている。より高活性なタンパク質医薬品を探索するためのアプローチとして、タンパク質ライブラリの利用が挙げられる。タンパク質ライブラリの構築では、いかに効率よくタンパク質に多様性を持たせるかがカギとなる。タンパク質のアミノ酸配列へ多様性を持たせることは、遺伝子工学的手法により容易に達成できる。これに対し、翻訳後修飾部分への多様性導入は、下記3つの理由から困難を極める。1) 翻訳後修飾は遺伝子に直接コードされていないため、遺伝子工学的手法により翻訳後修飾部分に多様性を持たせることは容易ではない;2) 発現系を用いた場合、翻訳後修飾部分の均一性が担保できない(特に糖鎖修飾);3) 化学合成により翻訳後修飾部位を有するタンパク質の合成は可能だが煩雑なため、多数の誘導体を合成することは現実的ではない。このような現状であるにも関わらず、翻訳後修飾はタンパク質の活性発現や機能制御において重要な役割を果たすことは周知の事実である。このため報告者は、翻訳後修飾部分に多様性を有するタンパク質ライブラリを構築する方法論確立に挑戦することとした。 本研究は以下の順に従って進めることとした。A) GM2APのN末端側フラグメントの調製;B) GM2AP半合成への挑戦;C) 様々な糖鎖を有するGM2AP誘導体ライブラリの構築と活性評価。 申請者は今年度、まずA)について検討した。詳細は「現在までの達成度」の項に示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は「A) GM2APのN末端側フラグメントの調製」について検討した。 まず、N末端フラグメント調製において鍵となるC末端選択的エステル化について検討した。この結果、報告者らの開発したチオエステル化反応の速度がアミノ酸配列に大きく依存しており、反応が速い場合は副反応を伴うこと、および反応が遅い場合は目的物の収率が低いことが明らかとなった。そこで本手法を真に実用的なものとすべく、配列非依存的チオエステル化法へと改良することに成功した。また、新型コロナウイルス感染症対策として在宅勤務となりウェットな実験が実施困難になったことに伴い、本研究で鍵反応となるN-sulfanylethylanilide (SEAlide) のリン酸塩依存的チオエステル形成反応の反応機構を量子化学計算により明らかとした。 以上に述べたとおり、本研究の基盤となるチオエステル化法の問題点を明らかにするとともにその解決法を確立したこと、および本研究の鍵反応のメカニズムを明らかにできたことから、GM2APのN末端側フラグメントの調製には至っていないものの新型コロナウイルス感染症のためウェットな実験が一時的に困難となったことも勘案し、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」の項に記載した通り、本研究の基盤となるチオエステル化法の課題を解決することに成功した。そこで今後は、本手法を基盤としたGM2APのN末端側フラグメントの調製と、GM2APの半合成に挑戦する。さらに、これら知見を基に、様々な糖鎖を有するGM2AP誘導体ライブラリの構築と活性評価を行う計画である。なお、本研究の鍵反応であるチオエステル化に用いている酵素が製造中止となり入手困難となったことから、今後はまず、本酵素の調製法について酵母からの単離や発現系の構築を含めて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)新型コロナウイルス感染症対策で一時的に在宅勤務となり、また出張が困難となったため、その間に使用予定だった消耗品費および旅費が抑制された。
(使用計画)翌年度分と合わせ、各種試薬や器具を購入するための費用に充てる計画である。
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