本研究では時計遺伝子の機能低下によって「がん幹細胞」が易発生するメカニズムを解明するとともに、低下した時計機能を回復させることで、がん幹細胞の薬剤耐性を克服する手法の開発を行うことを目的としている。一昨年度までの検討で、細胞のがん化過程において時計遺伝子によって発現が制御される因子の同定に成功しており、当該年度はがん化した時計遺伝子の機能不全細胞の多剤耐性獲得メカニズムの解析と時計遺伝子の機能活性化による「がん幹様細胞」の多剤耐性克服法の開発を目指して検討を行った。その結果、時計遺伝子によって発現が制御される抗がん剤感 受性の関連因子を同定した。また、時計遺伝子の機能不全細胞に選定した因子を強制的に発現(または欠損)させた場合、がん幹様細胞の抗がん剤感受性が回復した。これら一連の結果は概日時計機構が細胞のがん化のみならず、薬剤耐性などの悪性化にも関与していることを示唆している。さらに時計遺伝子は腫瘍に浸潤した免疫細胞の機能にも影響を及ぼし、免疫チェックポイント阻害剤の効果に投薬時刻に違いによる差異を引き起こすことも見出した。これら一連の研究から、概日時計機構は、がん細胞のみならずその周囲微小環境における細胞の機能にも影響を及ぼし腫瘍の成長や悪性化に寄与していることが明らかになった。
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