研究課題/領域番号 |
20K21495
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
加藤 晃一 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 教授 (20211849)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 糖鎖修飾 / 糖転移酵素 / 糖タンパク質 / 分泌経路 |
研究実績の概要 |
これまでの研究により、血液凝固因子由来の10残基のアミノ酸配列をC末端に連結させることで糖タンパク質の分泌効率を高めることが可能であり、こうして分泌された糖タンパク質は通常とは異なるシアリル化修飾(α2,3シアリル化)を受けるようになることを明らかとしてきた。 本年度はこうした現象の背景にある分子メカニズムの探究に取り組んだ。蛍光バイオイメージングにより、10残基のアミノ酸配列をC末端に連結することによってエリスロポエチンの細胞内局在が変化することを見出した。さらには、α2,3シアル酸転移酵素とα2,6シアル酸転移酵素の細胞内分布に違いがあることも見出した。こうしたことから、この10残基の配列は糖タンパク質の細胞内輸送経路を指定する“パスポート”として機能しており、それにより特定の糖タンパク質と特定のα2,3シアル酸転移酵素との会遇が制御されているという可能性が高まった。 これらの糖転移酵素が局在するゴルジ体内の限定的な領域は、オルガネラを構成する脂質およびタンパク質と糖転移酵素との相互作用を通じて形成されていることが予想される。そこで、近接標識法を応用して、糖転移酵素を取り巻くゴルジ体内区画に存在する分子群を捕捉することを試みた。本年度は糖転移酵素にビオチンリガーゼを結合させ、近接標識の実験系を確立した。一方で、HALO Tagと共有結合する化学プローブを合成した。これらの化学プローブは、①UV照射により近傍分子と共有結合による架橋を形成するジアジリン基、②Haloタンパク質に結合するHaloリガンド、③ターゲットタンパク質を架橋化したのちにクリック反応を利用することで簡便な精製を可能とするアジド基という3種類の官能基を有することが特長である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究を通じて、パスポート配列を連結することによるモデル糖タンパク質の細胞内局在の変化と、N型糖鎖のシアリル化を触媒する酵素の細胞内局在の違いを見出した。さらには、糖転移酵素近傍のタンパク質を同定するための近接標識法の実験系を整えることもできた。また、HALOリガンドを利用した新規な近接標識化学プローブの設計・作出にも成功している。以上の成果を総合的に判断して当初の計画以上に研究は進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、パスポート配列を融合した糖タンパク質がα2,3シアリル化糖転移酵素の局在する細胞内領域にどのように移動するかを蛍光ライブイメージングにより追跡することを計画している。また、共焦点顕微鏡を用いて、蛍光タンパク質を融合したα2,3シアル酸転移酵素とα2,6シアル酸転移酵素が異なることを示したが、より詳細な細胞内局在を見るために、免疫染色を利用した超解像蛍光顕微鏡観察を実施する予定である。 一方で、本年度確立することができた近接標識法を用いた実験を実施し、パスポート配列を付加したモデル糖タンパク質やシアル酸転移酵素やを取り巻く細胞内区画の分子ネットワークを一網打尽に捕捉し、トランスオミクス解析を実施することで、パスポート配列によるシアリル化修飾の制御機構の分子基盤を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染防止の影響で、予定していた旅費が使用できなかったことに加えて、試薬の供給が間に合わないものが多く、研究消耗品の購入が次年度に繰り越しになってしまったため。
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