研究実績の概要 |
本研究はショウジョウバエをモデルとして、上皮の概日時計によるがん制御を遺伝学的解析により明らかにするものである。ショウジョウバエ上皮である複眼原基にがん遺伝子Srcを活性化する細胞集団を野生型細胞とモザイク状に誘導すると、Src活性化細胞集団は細胞死を引き起こして組織から排除される。これまでにSrc活性化細胞集団の腫瘍形成を促す変異体を探索し概日時計因子であるtimeless (tim) を同定した。さらに同様のSrc活性化細胞集団の腫瘍形成は、tim以外の概日時計のコアとなる因子群(Period, Clock)の遺伝子発現をRNA干渉法により抑制した時でも引き起こされた。当該年度は、がん遺伝子Src誘導性の腫瘍形成において概日時計制御因子の発現や機能が抑制される分子機構の解析を進めた。これまでにCRISPR/Cas9ライブラリー系統を用いてSrc活性化細胞内に突然変異を導入しSrc活性化細胞集団の腫瘍形成に関わるがん抑制遺伝子を探索するスクリーニングした。その結果、Hippo経路の制御因子の遺伝子変異がSrc活性化細胞の腫瘍化を誘導することが分かった。これまでの先行研究から、Hippo経路のエフェクター分子であるYorkieの転写ターゲットであるmicroRNA (miRNA) bantamがTimやClkを抑制することが報告されていたため、Src活性化細胞にmiRNA bantamを遺伝学的に誘導したところ、Src活性化細胞の腫瘍形成が引き起こされることが分かった。これらの遺伝学的解析の結果から、Src誘導性の腫瘍形成にはYorkie-miRNA bantamを介した概日時計因子の制御が関わっていることが示唆された。
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