研究課題
近年のNGS解析により、ヒト胚では発生初期からランダムな遺伝子変異が頻繁に起きており、その結果として、一見正常そうに見えるヒト成体も変異モザイクであることが明らかになりつつある。また、当然ではあるが、胚発生時の変異により生じるモザイクは、多くの先天性疾患に関わる。しかしながら、変異モザイクに注目した疾患モデル動物は報告例がほとんどなく、これに関連し、発生期に生じた変異がどのようなプロセスを経て疾患を引き起こすのかは不明である。一方で、動物胚が突発的に生じた不良な細胞を積極的に除去するシステムを持つことが明らかになりつつあるが、このようなシステムがあるにも関わらず、どうしてモザイクが生じてしまうのかは不明である。そこで、本研究では、モザイク疾患モデルゼブラフィッシュを作製・解析することでモザイク疾患と不良細胞除去機構の関係と、モザイク疾患の発症プロセスを分子・細胞・個体レベルで解明する。本年度は、モザイク疾患の発症は環境ストレスによる不良細胞除去機構の破綻によって生じるという仮説をたて、除去機構を機能低下させる環境因子を探索した。その結果、pH環境の変化が不良細胞除去機構を機能低下させることを見出した。さらに、pH変化が細胞接着分子E-cadherinのタンパク質量を変化させることで不良細胞除去機構を機能低下させることを発見した。ヒトの発生において羊水のpH変化(妊婦のアシドーシスや糖尿病によって引き起こされる)が胎児の発生に負の影響を及ぼすことがよく知られており、pH変化による不良細胞除去機構の破綻との関連が推測される。また、既知のヒトモザイク疾患の患者で起きている遺伝子変異をゼブラフィッシュ胚にモザイクに導入する系を確立し、変異細胞の動態とモザイク形成の機序を解析している。加えて、ゼブラフィッシュと生化学を駆使して未知の先天性疾患原因遺伝子を同定した。
2: おおむね順調に進展している
胚の不良細胞除去機構を破綻させる因子としてpH環境の変化を見出し、また、そのメカニズムの一端を解明した。これらの結果から、順調に進展していると判断した。
今後は、pH環境の変化によって不良細胞除去機構が破綻させることで、ゼブラフィッシュにおいてモザイク疾患の発症を模倣できるか、そしてどのような機序で疾患が発症するか、検討を進める。また一方で、既知のモザイク疾患遺伝子についてゼブラフィッシュ胚にモザイク状に変異を導入する方法も使って、モザイク疾患モデルを作製し、解析していく。
新たな大学院生及び学部4年生が研究に参加したことで、研究及び動物維持が捗り、当初予定よりも人件費を抑えられた。また、実験系の工夫により消耗品費も抑えることができた。加えて、COVID19の影響で出張ができず、旅費も抑えられた。次年度使用額として余った助成金については、初年度に見出した現象をより詳細に解析するために新たに必要になった消耗品(抗体など)の購入にあてたい。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Journal of Human Genetics
巻: - ページ: -
10.1038/s10038-021-00909-x
Genetics in Medicine
10.1038/s41436-020-01091-9
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 533 ページ: 1470~1476
10.1016/j.bbrc.2020.10.044
The FASEB Journal
巻: 34 ページ: 16601~16621
10.1096/fj.202001113R
Scientific Reports
巻: 10 ページ: 17575
10.1038/s41598-020-74642-4
巻: 525 ページ: 726~732
10.1016/j.bbrc.2020.02.157
https://ishitani-lab.biken.osaka-u.ac.jp/