研究課題
近年のNGS解析により、ヒト胚では発生初期からランダムな遺伝子変異が頻繁に起きており、その結果として、一見正常そうに見えるヒト成体も変異モザイクであることが明らかになりつつある。また、当然ではあるが、胚発生時の変異により生じるモザイクは、多くの先天性疾患に関わる。しかしながら、発生期に生じた変異がどのようなプロセスを経て疾患を引き起こすのかは不明である。一方で、動物胚が突発的に生じた不良な細胞を積極的に除去するシステムを持つことが明らかになりつつあるが、このようなシステムがあるにも関わらず、どうしてモザイクが生じてしまうのかは不明である。そこで、本研究では、ゼブラフィッシュをモデルに、モザイク疾患と不良細胞除去機構の関係の解明を目指した。まず、ゼブラフィッシュに多様な変異細胞・不良細胞を導入し、その動態を可視化解析する系を構築した。この系を用いた解析によって、ゼブラフィッシュ稚魚上皮に出現した前がん細胞が隣接細胞に感知されて細胞老化を誘導されて増殖活性を抑制され、最終的に体外に物理的に押し出されることを発見した。また、p53変異を持つ上皮やDNAダメージが蓄積した上皮では、前がん細胞は排除されずに生存し、隣接正常細胞に増殖あるいは二次的な細胞老化を誘導して初期の腫瘍を誘導することを発見した(Nat Commun 2022; Cell Rep 2022; Curr Biol 2022など)。このように、発生期に生じた不良細胞を隣接細胞が感知・排除する新たなメカニズムを明らかにし、さらに、追加変異や環境因子がこの排除機構を抑制し、疾患発症を駆動することを明らかにした。本研究成果は、ヒト疾患発症プロセスの新たな理解をもたらすものと期待される。また、ゼブラフィッシュをモデルに新たなヒト先天性疾患の原因遺伝子を突き止めることにも成功した(Hum Mol Genet 2022)。
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Current Biology
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https://ishitani-lab.biken.osaka-u.ac.jp/