研究課題/領域番号 |
20K21503
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
島田 緑 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (60444981)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | プロリン異性化酵素 |
研究実績の概要 |
ペプチジルプロリルイソメラーゼ(PPIase)は、タンパク質中のプロリンのシス-トランス異性化反応を触媒し、タンパク質の高次構造を変化させる。PPIaseにはFKBP(FK506 Binding Protein)、シクロフィリンおよび Pin1の3つのファミリーが存在する。私たちは3つのファミリーの中で、FKBPに着目した。FKBPはヒトでは16種類存在し、細胞増殖、転写など重要な生命現象に関与することが知られているが、詳細な機能、役割はほとんど判明していない。その原因はPPIaseが標的とする基質同定の困難さであると推測される。 2020年度は、まず私たちが注目した異性化候補のペプチド(C末端:標的のP、F、ペプチジル-パラニトロアニリン, pNA)を合成した。PPIase活性によりプロリンがトランス体となると、キモトリプシンが選択的にフェニルアラニンを切断し、その速度を、遊離されるpNA由来の吸光度 (390 nm) 変化を観察することで測定した。 さらに同定した基質の異性化部位に対して、異性化変異体を作製し、野生型と変異体にFLAGタグをつけ293T細胞に過剰発現させ、FLAG-pull downを行い、結合する因子をプロテオミクス解析により網羅的に取得した。野生型と比べて変異体で結合が変動する因子を50以上取得し、結合状態の変化を免疫沈降により詳細に検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度にがん細胞の増殖に関与する基質を同定することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
(1)昨年度の研究実績から、異性化部位変異体と野生型と結合する因子を網羅的に取得していることから、異性化部位変異体において結合が増加もしくは減少する因子に注目する。まず候補となる因子との結合を免疫沈降法もしくはNanoBIT法によって検証する。異性化によって引き起こされる現象を明らかにする。(2)タンパク質相互作用データベースを活用し、PPIaseと結合するタンパク質の中で、細胞増殖に関与する重要な因子に絞り込む。タンパク質構造データベースPDBを用いて、構造上重要な部位に存在するプロリンについて、合成ペプチド系を用いたin vitroのアッセイを行い、基質となる可能性を検証する。(3)プロリンの異性化は多くの場合、近接するリン酸化に影響することが報告されている(Ruiz-Estevez et al, Cell Rep, 2018)。プロリン異性化の重要性について、異性化できない変異体、プロリンシス体・トランス体を用いて近傍のリン酸化に対する影響を検証し、異性化の重要性を明らかにする。プロリンの近傍に存在するセリン/スレオニン/チロシンのリン酸化がプロリン異性化の前提条件になっているかを実験的に検証する。それらのリン酸化をミミックするアミノ酸に置換し、in vitroの系を用い異性化反応への影響を検討する。またこれらの責任リン酸化酵素を同定し、その過剰発現や機能抑制によってプロリンの異性化反応が影響を受けるかどうかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存の抗体および試料を活用できたため、予定していたよりも物品費が少なくても研究を遂行できた。次年度はプロテオミクス解析によって得られた因子の抗体が必要であり、かつ大量に細胞を培養するため細胞培養にかかる費用が必要であるため、物品費として、さらに研究補助が必要であるため、人件費として使用する予定である。
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