研究課題/領域番号 |
20K21503
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
島田 緑 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (60444981)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | プロリン異性化酵素 |
研究実績の概要 |
(1)これまでの研究実績から、FKBP52の基質を同定しており、その基質に対して異性化部位変異体と野生型と結合する因子をプロテオミクス技術により網羅的に取得できている。その中で、異性化部位変異体において結合が増加もしくは減少する因子として、DNA修復酵素に着目した。基質の野生型、異性化部位変異体に対してFLAG-tagをつけ、293Tに発現させ、FLAG-pull downを行なったところ、DNA修復酵素は野生型に対して異性化部位変異体では大きく減少することが分かった。この結果から、異性化を介したDNA修復の活性調節が行われている可能性が示唆された。(2)タンパク質相互作用データベースを活用し、FKBP52と結合するタンパク質の中で、細胞増殖に関与する重要な因子であり、かつユビキチンリガーゼに絞り込んで解析を進めた結果、BRCA1を取得した。詳細な解析により、FKBP52はBRCA1と結合し、エストロゲン受容体(ERα)の安定性を増加させていることが明らかとなった。重要なことに、ERα陽性乳がん患者さんにおいてFKBP52が高発現していると、予後不良となることを見出した。ヒトにはFKBPファミリーは16因子存在する。この中でFKBP52と最も相同性の高いFKBP51の機能を調べたところ、FKBP51はERαの分解を促進することが分かった。FKBP52野生型を高発現すると、ERαの発現は増加するが、酵素活性変異体を高発現してもERαの発現は増加しなかったことから、FKBP52の異性化酵素活性がERαの安定化に寄与していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞の増殖に関与する基質を同定することができ、その基質からプロリン異性化による機能解析へと進めることができているため。
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今後の研究の推進方策 |
(1)異性化部位変異体と野生型と結合する因子を網羅的に取得していることから、今回着目したDNA修復酵素だけではなく、他にも興味深い異性化部位変異体において結合が増加もしくは減少する因子に注目し、候補となる因子との結合を免疫沈降法もしくはNanoBIT法によって検証する。異性化によって引き起こされる現象を明らかにする。(2) FKBP52野生型を高発現すると、ERαの発現は増加するが、酵素活性変異体を高発現してもERαの発現は増加しなかったことから、FKBP52の異性化酵素活性がERαの安定化に寄与していると示唆された。そこで、ERαがFKBP52の基質となりうるかについて、タンパク質構造データベースPDBを用いて、構造上重要な部位に存在するプロリンについて、合成ペプチド系を用いたin vitroのアッセイを行い、基質となる可能性を検証する。(3)プロリンの異性化は多くの場合、近接するリン酸化に影響することが報告されている(Ruiz-Estevez et al, Cell Rep, 2018)。プロリン異性化の重要性について、異性化できない変異体、プロリンシス体・トランス体を用いて近傍のリン酸化に対する影響を検証し、異性化の重要性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞培養に必要な経費が予定よりも安かったので、残金が生じたが、今年度は細胞培養が多くなる見込みなので、細胞培養に必要な経費として使用する予定である。
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