研究課題/領域番号 |
20K21507
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
村野 健作 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80535295)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | レトロトランスポゾン / ウイルス様粒子 / マウス初期胚 / 全能性 |
研究実績の概要 |
ゲノムの膨大な領域(ヒトでは40%以上)を占めるトランスポゾンは、ゲノムに内在する変異原であり、転移を繰り返すことで宿主ゲノムを損傷するものと考えられてきた。つまりトランスポゾンは宿主によって抑制されなければならない対象である。一方、近年のゲノム解析の進展から、トランスポゾンはゲノム進化の原動力であると考えられるようになった。トランスポゾンは、宿主の遺伝子発現系に取り込まれ(Co-option)、複雑な発生を可能にする遺伝子プログラムの構築に寄与するというモデルが提唱されている。本研究では、トランスポゾンのもう一つの側面、すなわち宿主の遺伝子プログラムへの貢献という観点に立ち、マウス初期胚発生期に一過的に発現するトランスポゾンと宿主の相互作用に着目する。初期胚とES細胞を用いて、それらがどのように全能性制御に関わるか解明し、トランスポゾンと宿主の共生関係の理解を目指す。 マウスのレトロトランスポゾンMuERVL(マーブル, Murine Endogenous RetroVirus with Leucine tRNA primer)はゲノム内に1000コピー以上存在する。マウス初期胚、特に全能性を保持する2細胞期胚において一過的に大量発現し、全能性の喪失と同調して消失する。MuERVLのコードするGagタンパク質は多量体を形成し、自身のRNAと結合することが明らかとなった。FISHと免疫染色法を用いた解析からマウス2細胞期胚の細胞核に局在するMuERVL RNAは徐々に細胞質へと排出され、4細胞への分裂直前には全て細胞質へと移動し、Gagタンパク質と共局在する様子が観察された。現在、Gagタンパク質と相互作用する宿主mRNAの動態について観察を続けている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MuERVLの構造タンパク質であるGagの機能について詳細がわかってきた。N末端領域に多量体形成ドメイン、C末にRNA結合ドメインを有し、自身のRNAを内包するウイルス様粒子構造を形成することが明らかとなった。これまでは、マウスES細胞を試料とした解析がメインであったが、今年度にはいってからはFISHと免疫染色法を用いて、マウス初期胚におけるGagタンパク質とMuERVL RNAの動態を観察することができた。マウスES細胞に転写因子DUXを発現させると、細胞は二細胞期様のトランスクリプトームを呈す。同時にMuERVLが誘導発現し、Gagタンパク質は細胞質に、MuERVL RNAは細胞核に分布する。この結果から、Gagの形成するウイルス様構造は中身にRNAを保持しないものだと考えられた。しかし、マウス2細胞期胚の細胞核に局在するMuERVL RNAは徐々に細胞質へと排出され、4細胞への分裂直前には全て細胞質へと移動し、Gagタンパク質と共局在する様子が観察された。以上のように、本研究課題は概ね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、MuERVLの発現抑制実験に取り組む。すでにアンチセンスオリゴやsiRNAを用いたGagタンパク質の発現抑制に成功している。MuERVLの発現抑制によるマウス初期胚発生への影響を検討する。また、Gagタンパク質と相互作用する因子として、転写因子DUXを同定している。DUXは接合子ゲノム活性化(ZGA)に関わるキーファクターと考えられている。Gagとの相互作用を介したDUXの局在制御や分解制御について解析する。DUXと同様にGagと相互作用する転写因子として、マルチコピー因子Obox4を同定した。Obox4の機能はこれまでに報告はないが、Obox4の過剰発現によってES細胞は二細胞期様の遺伝子発現パターンを示した。Obox4によるZGAの可能性について検討し、DUXとの役割分担を明らかにする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延による緊急事態宣言を受け、研究計画に大幅な見直しが必要となった。そのため次年度使用額が生じた。昨年度に見送った研究計画を本年度に組み込み、実行する。
|