LINE-1はヒトゲノムの約 17%を占め、ゲノム上に自分自身のコピーを増やしていく性質を持つレトロトランスポゾンである。初期胚発生過程においてLINE-1は高発現するが、その生物的な意義や、宿主への影響についての研究はまだ少ない。本研究では、LINE-1 がコ ードするタンパク質L1ORF1pに対するモノクローナル抗体を作製した。2細胞期胚様ES細胞抽出液を用いて免疫沈降法により精製し、質量分析を行ったところL1ORF1pの相互作用因子としてTDP-43を同定した。初期胚発生においてTDP-43とLINE-1の挙動を探索するため、TDP-43の変異体を作製し、免疫沈降方法および LINE-1 転移活性測定系により、TDP-43のN末ドメインがL1ORF1p と直接相互作用し、C末ドメインがLINE-1 の転移抑制に重要であることを見出した。また、TDP-43のN末欠損変異体を発現するマウスES細胞株において、LINE-1 のコピー数が20%程度増加していることを見出した。また、L1ORF1pの発現上昇が認められた。以上の結果から、TDP-43はL1ORF1pとの相互作用を介してLINE-1の転移反応を抑制していることが明らかとなった。次にマウス初期胚発生において高発現するLINE-1の転移反応への影響を見るため、TDP-43に対するsiRNAをマウス受精卵に注入し、TDP-43 の発現抑制実験を行なった。その結果、胚盤胞のサイズが小さくなったことから細胞増殖速度の低下が示唆されたものの、多能性マーカー遺伝子の発現量に目立った変動がないことから、TDP-43 の発現抑制は受精卵の発育プログラムに対して影響を与えなかった。以上の結果からTDP-43は初期胚発生の過程で脱抑制されるLINE-1の転移活性を抑制し、ゲノム恒常性の維持に寄与していていることが明らかとなった。
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