研究課題/領域番号 |
20K21517
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 健雄 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10201469)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | アフリカツメガエル / 再生 / FGF10 / インターロイキン11 / IL11受容体 |
研究実績の概要 |
アフリカツメガエル幼生の肢再生能は発生ステージの進行に伴って低下する。早いステージ(st52以前)で肢芽を切断した場合は関節や全ての指の構造が形成されるが、遅いステージ(st58以降)で肢を切断した場合には関節や指を欠き、主に軟骨から成る「スパイク」が形成されるに留まる。本研究課題は発生進行に伴う再生能喪失の要因と、再生能の人為的賦活化の方策の探索を目的とし、今年度は以下の実験を実施した。(1)発生ステージ56付近の幼生肢を切断すると、一部の指を欠く限定的な再生能が見られるが、FGF10投与はその再生能を改善することが知られている。そこで肢芽切断後FGF10投与群・非投与群における再生芽のsingle cell RNA seq解析を行い、肢再生能と相関する遺伝子や細胞種を探索した。その結果、FGF10投与により、再生芽上皮(Apical Epidermal Cap; AEC)や軟骨芽細胞の遺伝子発現プロファイルが大きく変化することが分かった。以前からAECは肢芽再生に必要であること、スパイクでは軟骨細胞が増殖することが知られており、今回の知見は、その分子機構に迫る基礎データになると考えられる。さらにFGF10投与は、特定の白血球分画や線維芽細胞分画の発現遺伝子プロファイルにも影響することが分かった。これらの細胞種は、肢再生に関わる新たな細胞種の候補と考えられる。(2)ツメガエル幼生は高い尾再生能を持つ。幼生肢と尾の再生の分子機構を比較するに当たり、当研究室で以前に同定された、幼生尾再生時に未分化細胞誘導に働くインターロイキン11(Il11)の幼生尾における作用機序の解析を行い、Il11とIl11受容体α鎖との結合、Il11受容体α鎖遺伝子が尾再生に必要であること、Il11受容体を介したシグナルが細胞非自律的に未分化細胞誘導を起こすことを見出した(鈴木ら、Sci.Rep.)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Single cell RNA -seq解析は、「先進ゲノム支援(PAGS)」のご支援をいただいて実施した。FGF10投与により発現遺伝子プロファイルが変化した細胞種のうち、再生芽上皮(AEC)と軟骨芽細胞については先行研究でそれぞれAECは再生に必要である一方、軟骨芽細胞は再生に対し阻害的な作用をもつことが報告されている。AECにおいては四肢形成への関与が知られているfgf8、wnt3aの発現上昇の他、再生時の細胞増殖に関与するfos/junの顕著な発現上昇がみられた。軟骨芽細胞については複数のcollagenの発現低下が見られ、これはFGF10による軟骨芽細胞の分化阻害を反映するものと考えている。マクロファージ様白血球分画、線維芽細胞(steap4陽性)細胞においては、免疫機能を担う因子群(代表例として前者ではtoll-like receptor 5、後者ではchitinase)の顕著な発現増強が見られた。これらの細胞種や因子の四肢再生能への関与はこれまで報告されておらず、再生能に関わる新規機構である可能性を考えている。この内容はDev. Growth Differ.誌に投稿し、現在リバイス中である。(2)ツメガエル幼生尾再生時の増殖細胞誘導に必要十分な因子として当研究室で同定したil11の作用機序について、il11受容体α鎖欠損細胞も再生尾形成に寄与することを示し、Il11によるIl11受容体を介したシグナルは細胞非自律的に未分化細胞誘導を起こすことを見出した(鈴木ら、Sci.Rep.)。なお鈴木らによるSci.Rep.誌で論文発表した研究成果は一部、課題番号19K06437(代表:深澤太郎)の内容を含んでいる。これらの知見は、発生ステージに応じた器官再生能の新規な分子細胞機構を解明したものであり、本研究課題の目的に則した研究成果が得られたと判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた研究成果について論文出版を行う。また、実施したsingle cell RNA seq解析の結果の検討を進め、引き続き再生能と相関する要因の探索を行う。またFGF10処理・非処理条件で肢切断端に検出される細胞の疑似分化系列を推定し、再生能に応じた遺伝子発現プロファイルや出現する細胞種の相違の検出と、これに関わり得る因子の探索を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究費の端数として今年度、30,152円の次年度使用額が生じた。次年度の物品費として利用する予定である。
|