造血系は免疫細胞や赤血球などの血液細胞を産生し、全身に供給することで生命活動に必須の役割を担っている。定常状態における造血に対して、感染症や炎症、抗がん剤治療や放射線照射などのストレスによって誘導される造血は「Emergency hematopoiesis(緊急時造血応答)」と呼ばれ、定常時の造血とは異なる機構で駆動される。感染症や炎症では、病原体や様々な炎症性サイトカインにより組織傷害が誘導されるが、このような状況下で造血系がどのように機能を維持しているのか十分に理解されていない。また、緊急時造血応答ではミエロイド系細胞の産生が亢進する一方で、リンパ球系細胞の産生が抑制されるため、緊急時造血応答の誘導におけるリンパ球系細胞の重要性も不明であった。 本研究では、敗血症によって誘導される緊急時造血応答において、ミエロイド系細胞の細胞表面マーカーや遺伝子を発現する特殊なB細胞が骨髄内で増加し、これがIL-10を産生することで、炎症による細胞傷害から造血前駆細胞を保護していることを見出した。また、IL-10は直接、造血前駆細胞を刺激することでよりミエロイド系細胞産生に特化した造血応答を誘導できることも明らかにした。これらに機構により、B細胞由来IL-10は緊急時造血応答によって誘導されるミエロイド系細胞の数を増加させた。さらに、このミエロイド系細胞の産生は、実際の感染症において、末梢組織における自然免疫細胞の数を増加させ、病原体の排除を助けることを明らかにした。以上のように、緊急時造血応答を強化し、より強い免疫応答を引き起こす新たな仕組みを明らかにした。
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