研究課題
生体内において、あらゆる細胞は隣接する細胞、細胞外基質、血液を含む細胞外液などから物理的刺激を受けている。物理的刺激には圧力、張力、せん断(ずり)応力、浸透圧や温度などが含まれ、これらが時間空間的に変化することが生体の恒常性維持、逆に疾患発症にも関わっていることは容易に想像できる。物理的刺激が細胞内に伝達され遺伝子発現調節につながる経路(メカノトランスダクション)はある程度解明されているが、同刺激によって特定のタンパク質分泌が誘導される現象やその分子機構についてはよくわかっていない。最近我々は、乱流(動きが不規則に絶えず変動している乱れた状態の流体)がiPS細胞由来巨核球(imMKCL)からの血小板産生を促進することを明らかにした。また乱流刺激によりナルディライジン(nardilysin, NRDC)の分泌が誘導されるがmRNAレベルの変化は伴わないこと、NRDC分泌は乱流強度に比例して増加し、分泌したNRDCが血小板産生を正に制御していることが明らかになった。NRDCはペプチダーゼ活性を有するが、酵素活性欠損変異体NRDC(NRDC-E>A)には血小板産生誘導作用を認めなかったことから、NRDCが酵素活性依存性に血小板産生に寄与していることが示唆された(Cell 2018)。NRDCは典型的なシグナルペプチドを有さないリーダーレスタンパク質であり、いわゆるunconventional経路を介して分泌される。本研究においては、imMKCLにおけるNRDC分泌を主たるモデルとして、1) 乱流によって誘導される「NRDC分泌」と「血小板産生」という2つの事象の因果関係、2)ペプチダーゼ活性がいかに血小板産生に寄与するのか、を明らかにすることを目的とする。
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