研究課題
グルココルチコイド(GC)は強力な免疫抑制作用を持ち、自己免疫疾患の治療に用いられる。研究代表者らは、日内変動するGCがT細胞のリンパ器官への集積を促し免疫応答能を高めることを明らかにし、GCの新たな生理機能を提示した。さらに、T細胞特異的グルココルチコイド受容体欠損マウスにおいてTh17細胞の分化が障害され、多発性硬化症のモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の発症が減弱するという予備的結果を得た。したがって、生体内のGCが自己免疫疾患の発症を促進する可能性が考えられた。本研究では、GCがTh17細胞の分化と機能を高め自己免疫疾患の発症を促進することを、T細胞およびTh17細胞特異的なグルココルチコイド受容体欠損マウスを用いて明らかにする。これにより、強い免疫抑制作用で知られるGCが生理的な濃度では逆に自己免疫疾患を誘導する働きを持つという逆説的な概念を確立する。そのために、A.GCによるTh17細胞の分化と機能の亢進機構、B.GCによるTh17細胞を介した自己免疫疾患の誘導機構、の2つの研究項目について研究を行った。GCによるTh17細胞の分化と機能の制御については、T細胞特異的GR欠損マウスのT細胞でTh17細胞の分化誘導が低下していた。また、T細胞特異的GR欠損マウスの小腸粘膜固有層におけるTh17細胞の割合が顕著に減少した。したがって、GCがTh17細胞の分化のみならずその維持にも必要であることが明らかになった。さらに、GCによるTh17細胞を介した自己免疫疾患の誘導機構については、T細胞特異的GR欠損マウスにおいてEAEの発症が減弱しており、脳脊髄組織に浸潤したTh17細胞が減少した。したがって、GCがTh17細胞の分化を介してEAE発症を促進することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
研究項目A. GCによるTh17細胞の分化と機能の亢進機構: T細胞特異的GR欠損(CD4-Cre GRcKO)マウスとコントロ―ルマウスからナイーブT細胞を単離し、CD3とCD28抗体で刺激しIL-6とTGF-betaを添加して4日間培養しTh17細胞の分化を誘導した。その結果、CD4-Cre GRcKO マウスでIL-17A を産生するTh17細胞の分化が顕著に減少した。生体内でTh17細胞は腸管粘膜固有層に多く分布する。T細胞特異的およびTh17細胞特異的GR欠損(IL17-Cre GRcKO)マウスを作製し、小腸粘膜固有層リンパ球を単離し解析したところ、いずれのGR欠損マウスでもTh17細胞の割合が顕著に減少した。したがって、GCがTh17細胞の分化のみならずその維持にも必要であることが明らかになった。研究項目B. GCによるTh17細胞を介した自己免疫疾患の誘導機構: Th17細胞は、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)発症において主要な働きをしている。T細胞特異的GR欠損マウスとコントロ―ルマウスにMOGペプチドとalumを接種してEAEを誘導した。経時的に神経症状をモニターしたところ、T細胞特異的GR欠損マウスで神経症状が顕著に減弱した。さらに、脳脊髄組織からリンパ球を回収しIL-17Aの産生を測定しTh17細胞の浸潤を解析したところ、T細胞特異的GR欠損マウスでTh17細胞が減少していた。したがって、GCがTh17細胞の分化を介してEAEの発症を促進することが明らかになった。
研究項目A: GRの標的遺伝子の発現が最高値になる消灯1時間後において、RORgt-GFPを導入したT細胞特異的GR欠損マウスの腸管粘膜固有層から、GFPを指標としてTh17細胞を単離する。RNA-seq法にてmRNAの発現を、抗GR抗体を用いたChILT-seq法(1,000細胞で可能)によりGRが結合するゲノム領域を網羅的に解析し、コントロールマウスと比較することでTh17細胞におけるGRの標的遺伝子の候補を絞り込む。得られた候補遺伝子のGO解析等をおこなうことで、Th17細胞の分化や機能におけるGCの新規機能を調べる。研究項目B: SKGマウスはT細胞受容体下流のシグナル分子ZAP-70の変異のために、関節リウマチ様の関節炎を自然発症する。この関節炎にはTh17細胞が関係しており、遺伝的背景がBALB/cであることが必要である。そこで、すでに作製を終えたBALB/c背景のT細胞およびTh17細胞特異的なGR欠損のSKGマウスにマンナンを投与し、関節の腫脹、組織染色、末梢血中の自己抗体を指標にして、関節炎の発症を経時的にモニターする。以上の実験から、GCがTh17細胞の分化と機能を介して関節炎の発症を促進することを検証する。
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