本研究は、先天疾患を誘導する病的幹細胞が原因遺伝子修復により自律的組織形成能を再獲得できるかを検証することを目的とする。疾患としては先天性の腸管神経幹細胞の異常により広範に神経欠損を起こす難治性ヒルシュスプルング病(HSCR)に焦点をあてる。このモデルマウスで一部の神経幹細胞の正常化を行い、修復神経幹細胞により腸管神経系が正常に形成されるかを解明する。 2021年度は、2つのHSCRモデルマウス作製を試みたが、一つのモデル(Sox10遺伝子座の改変により作製する計画k)は、相同組換えESクローンが生殖細胞系譜に寄与せず、樹立できなかった。そこで、2022年度は、すでに樹立したRet遺伝子座に優勢阻害型RET変異体であるRET(S811F)cDNAをloxPで挟んでRetプロモーター下に挿入したマウス(conRET(S811F))の解析を進めた。conRET(S811F)を片アレルに持つマウスは腸管神経を先天的に欠損しHSCRの病型を示す。腸管神経系は、迷走神経堤細胞およびシュワン細胞前駆細胞から構成されるが、それぞれに特異的なCreドライバーを用いてRET(S811F)cDNAを除去すると、腸管神経欠損のフェノタイプが抑制された。発生途上でどの程度の細胞で優勢阻害変異を除けば正常の腸管神経系が形成されるかを、迷走神経堤細胞の一部で発生のさまざまな時期にRET(S811F)cDNAを除去することで解析した。その結果、腸管神経系形成の部分的な回復が認められたが、腸管神経欠損を示すマウスも観察された。一方、シュワン細胞前駆細胞でRET(S811F)cDNAを除去した場合は、すべての例で腸管神経欠損が回避できた。以上の結果は、HSCRにおける腸管神経再生にシュワン細胞が有用であることを示唆している。
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