研究課題/領域番号 |
20K21527
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
小椋 義俊 久留米大学, 医学部, 教授 (40363585)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 大腸菌 / ゲノム / 下痢症 / 病原因子 / 集団感染 |
研究実績の概要 |
大阪健康安全基盤研究所から分与した149株の大腸菌のシーケンスライブラリーを作成し、シーケンスを行った。これらの菌株は、大阪府で2003年から2012年までに発生した病原因子不明大腸菌が原因と疑われる集団下痢症10件において分離された菌株であり、大腸菌以外には下痢の原因となる微生物は検出されていない。現在、シーケンスデータのアセンブル等の解析を進めているところである。 また、福岡県のある施設で発生した162名の集団下痢症事例から分離された大腸菌の解析も行った。本事例では、大腸菌以外に原因と疑われる病原体は検出されていない。有症患者23名と施設従業員19名から分離された大腸菌についてゲノムシーケンスを行った。解析の結果、血清型と系統群が異なる4つのグループに分類された。各グループ内では、0~7個のSNPしか検出されなかったため、同一菌株に由来するクローンであることがわかった。最も菌株数が多かったグループの菌株からは、serine protease Pic, serine protease espC, enterotoxin senBなどの病原因子が同定された。これらの遺伝子が下痢の原因遺伝子候補であるが、さらに同様の事例を多数解析することと、健康保菌者の大腸菌ゲノムの比較から統計的に絞り込む必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者が勤務先を異動したため、シーケンスライブラリー調整に必要な器具の調達などのセットアップが必要となり、研究の進捗が遅延した。年度後半でセットアップが終了したため、大阪健康安全基盤研究所から分与された10事例の原因菌不明集団下痢症から分離された大腸菌149株のライブラリーをIDT社のキットを用いて作成し、シーケンスまでを完了した。現在、ゲノムアセンブルや系統解析、菌株型別、病原因子の同定などの解析を進めている。 また、福岡県の原因不明集団下痢症事例から分離された合計42株(有症患者由来23名と施設従業員由来19名)の大腸菌についてイルミナシーケンサによるシーケンスと解析を行った。まず、生リードデータをplatanusアセンブラーでアセンブルし、ドラフトゲノム配列を得た。ゲノムカバレッジ、completeness, contaminationなどのチェックのあと、系統解析とin silico血清型別を行った。その結果、42株の大腸菌は血清型の異なるグループA(23株)、B(8株)、C(7株)、D(2株)の4つ系統群とその他(2株)に分類された。各グループ内では、0~7個のSNPしか検出されなかったため、同一菌株に由来するクローンであることがわかった。また、グループCとDは、従業員のみが含まれていたため、原因の大腸菌はグループAもしくはBであると推察された。グループAの大腸菌からは、serine protease Pic, serine protease EspC, enterotoxin SenBなどが、グループBからは、Agg線毛、Shigella enterotoxin 1などの病原因子が同定された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、大阪の10事例の原因菌不明集団下痢由来の大腸菌149株の解析を進める。それらと福岡の事例、さらに、以前解析を行った大分の4事例の菌株について、個々菌株の病原因子の同定とそれらの共通性を明らかにする。さらに、我々が以前にシーケンスを行った健康な日本人由来常在性大腸菌約250株のゲノムと比較することで、機能未知遺伝子も含めて、下痢症由来株に統計的優位に存在する遺伝子の同定を行うことで、新規の下痢原因遺伝子の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、衛生研究所の職員の業務が圧迫し、本研究に必要な菌株の分与が遅れた。さらに、研究代表者が所属先を異動したため、新たな研究室のセットアップに時間を要したため、研究の進捗が遅延した。
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